LIXILは、世界中の誰もが描く住まいの夢を実現するために、日々の暮らしの課題を解決する先進的なトイレ、お風呂、キッチンなどの水まわり製品と窓、ドア、インテリア、エクステリアなどの建材製品を開発、提供しています。
子どもたちが一日の大半を過ごす学校。学校に欠かせない設備は何かと聞かれたら、何を思い浮かべるでしょうか。
クラス全員分の机と椅子、図書館、コンピューター室などと比べると、トイレはすぐに出てこないかもしれません。しかし、世界では、安全なトイレが利用できない環境で、多くの生徒が学校生活を送っているという現実があります。
アフリカ・サハラ砂漠以南のサブサハラ地域では、地面に穴を掘り、排泄物を溜めるだけの「ピット式トイレ」と呼ばれるトイレが多くの学校で使われています。こうしたトイレはにおいを防ぐ仕組みが十分ではなく、病原菌を媒介する虫などを引き寄せるほか、生徒が穴に落ちて怪我をする危険もあります。さらにプライバシーがほとんど保たれておらず、一つのトイレを数百人の生徒が共有する場合も多くあります。
こうした環境では、生徒が安心して学業に励むことが難しく、授業への出席率にも悪影響を与えています。登校しているにもかかわらず、トイレのために長い列に並ばなければならないため、授業に出席できないようなケース1があるほか、校内のトイレが使えないので、屋外で排泄をする生徒も多くいます2。特に、女子児童への影響は深刻です。思春期を迎えた女子児童にとって、学校にトイレがないことで通学をあきらめざるをえず、教育の機会を失うという現実があります。アフリカでは、学校を中退する女子児童の半数3が、学校に衛生的なトイレが整備されていないことを理由に挙げています。
LIXILのSATO事業部でアフリカ地域を統括するサミュエル・ランガットは言います。「多くの人は毎朝起きた時に、使えるトイレがどこにあるのか探すことはないでしょう。しかし、すべての人がそうではありません」。「誰もが安全で清潔な衛生設備が利用できるよう、環境を整備しなくてはなりません。それは、すべての人にとって当然の権利なのです」
世界の衛生環境を改善することは、伝染病の拡大を防ぐだけでなく、世界が抱えるさまざまな課題の解決につながります。
国連は、持続可能な開発目標(SDGs)は6つ目のゴールとして「安全な水とトイレを世界中に」を掲げ、2030年までに水と衛生の課題の解決を目指しています。しかし同時にこの目標の達成には、世界は衛生設備改善のスピードを今よりも5倍早める必要4があると国連は指摘しています。
ケニアの小学校にある「ピット式トイレ」(SATO導入前)
2022年の時点で、世界人口の半数弱にあたるおよそ35億の人びとが、いまだに安全で衛生的なトイレを使えない状況にいます。基本的な手洗い設備がない人びとは20億人にのぼっています。こうした問題は、多くの子どもたちが1日の大半を過ごす学校において特に深刻です。世界では基本的な衛生設備が設置されていない学校は、約3校に1校の割合5にのぼります。サブサハラ地域の学校では、この割合はさらに上昇して2校に1校以上となっており、ランガットが活動している地域では、200人もの生徒が1つのトイレを共有するケースもあります。
学校に安全で清潔なトイレが整備されると、人びとの暮らしや社会全体に、幅広く良い影響が及ぶとランガットは力説します。学校は、子どもたちの学びを支える場所であると同時に、多くの地域コミュニティーにおいて、地域の人びとがコミュニケーションをするうえで重要な役割を果たしているからです。
「衛生環境の改善はより良い社会への扉を開く鍵のようなものです。国連が掲げるSDGsは、それぞれの目標が密接に関連しており、衛生環境の改善が進めば、それ以外の目標の達成にもつながっていくのです」
LIXILのSATO事業部では、2020年、タンザニア、ケニア、エチオピア、ウガンダ、ルワンダ、ナイジェリアを対象に、学校のトイレを整備する「学校トイレ改善プログラム(STEP)」を開始しました。これまでに50校以上で、同事業部が開発途上国向けに展開する簡易式トイレSATOを導入してきました。新たに設置されたトイレは、少ない水で洗浄ができ、水と排せつ物の重みで弁が開き、洗浄後は弁が閉まることで、悪臭や虫の発生を防ぐことができます。
このプログラムを通じて、68,000人の生徒が安心して勉学に取り組める環境づくりにつなげてきました。さらに、この変化は学校だけにとどまらず、地域コミュニティ全体に衛生環境を改善することの重要性を広く知ってもらうきっかけにもなりました。
各地域で衛生環境の改善を推進していくためには、まず最初に現地の人びとに、取り組むべき課題を伝えていく必要があります。清潔なトイレや手洗いの重要性をまず理解してもらい、そのためにはどんな選択肢があるのかを広めていくことが重要なのです。
「その意識改革の推進役となってくれているのが子どもたちです」とランガットは言います。「子どもたちは家に帰ると、学校に導入されたトイレのことを家族に話します。子どもたちの話を聞いて、トイレに関心を持つ家庭が増え、問い合わせがくるケースが多くなってきました」
生徒の保護者の中には、衛生環境の改善がいかに大切かを地域の人びとに教える役割を果たす人も出てきました。その結果、他の学校や地域の人びとが関心を持つようになり、同様のトイレを設置する動きにもつながってきています。
多くのコミュニティーにおいて、学校は中心的存在です。結婚式や地域の会合などの会場にもなっているため、衛生設備を改善するとどんなメリットがあるのか、地域の人にすぐに伝わります。学校で新しいトイレの引き渡し式を行い、地域の人たちを招待することで、SATOがどんなものでどうやったら買えるのか、直接知ってもらうこともできました。
ルワンダでは、いくつかの学校が新しいトイレを導入したところ、その評判が政府にも届き、その後1年で約90校の改修費用の拠出につながっています。
衛生環境の改善に向けては、製品の安定した供給から資金調達まで、幅広い解決策が必要ですが、重要な課題の一つは地域の人びとが製品を「買おうと思えるかどうか」です。
少ない家計をやりくりして毎日を暮らす多くの人びとにとって、トイレや手洗い設備を整備するのに費用をかけ、衛生環境を改善するという選択は、どうしても優先順位が低くなりがちです。その地域のリーダーが学校の衛生環境の改善に理解があったとしても、資金を確保するために、適切な金融サービスを見つけるのが難しいというケースもあります。「こうした費用は、金額自体がさほど大きくなくても、多くの金融機関は債務不履行のリスクを懸念して、融資を敬遠する傾向があります」とランガットは説明します。
課題の解決の一助となるべく、SATO事業部は金融機関との提携を進めてきました。個人向けに小規模な貸付けを行う、小口融資(マイクロファイナンス)のサービスを提供する「フィニッシュ・モンディアル」もこうしたパートナーの一つです。衛生設備の改善に必要な費用を一度に賄えないコミュニティーに対しては、複数の金融機関と連携することで、月々分割して返済できるよう支援しています。また、衛生設備を建設・設置する個人事業者の運転資金についても、融資を受けられるようにしています。
「衛生環境の改善はトイレだけの問題ではありません。技術革新、資金調達、パートナーシップなど、多岐にわたる分野で対応が求められています」とランガットは強調します。
学校の衛生環境改善に取り組むかどうかは、子どもの健康や教育、ひいては彼らの将来にも影響します。サブサハラ地域の多くでは、学校がコミュニティのハブ的な役割を果たすことで、地域全体にポジティブなインパクトを生み出しています。
とはいえ、まだ衛生課題の解決に向けて一歩を踏み出しただけだ、というのがランガットの実感です。STEPのプログラムをさらに発展させるとともに衛生への認識を高め、NGOから一般企業、政府までパートナーを広げ、全てを相互に作用させながら、投資を呼び込んでいくことが重要になってきます。衛生設備の設置や販売、メンテナンスなどを地域で循環させることができれば、私たちの取り組みの持続可能性は高まり、地域経済が発展するきっかけにもなります。
「この問題の緊急性は高く、あらゆる面でより多くの協力と資金が必要です。グローバルな衛生課題の解決に向けて、私たちの総力を挙げた取り組みが急務になっているのです」