3Dプリンターが生み出す水栓金具の未来

SHARE

in

更新:2017年7月27日

「あらゆる制約を取り払い、従来のやり方に捉われることなく、最先端技術を使って新境地を生み出して欲しい」と言われたら、デザイナーにとってこれほど意欲を掻き立てられることはないでしょう。3Dプリンティングの技術によって、これまで不可能と思われていた形状のデザインが実現できるようになりました。まさに、天才的なひらめきを、新たなイノベーションにつなげることができるのです。

LIXILが北米地域で展開する水まわり製品の高級ブランド、DXVは、水栓金具の概念を根本から覆すような、3Dプリンターを活用した水栓金具の商品化に世界で初めて成功しました。

3Dプリンターの普及

3Dプリンターの普及航空宇宙産業から、自動車、医療、医薬品に至るまで、近年、様々な分野で3Dプリンティング技術の活用が進んでいます。3Dプリンターの出現によって、製品開発プロセスや生産方法など、ものづくりの現場が変わろうとしています。新素材の採用が進んだり、ヘルスケアの分野では、口の中で簡単に溶ける多孔性錠剤が3Dプリンターで初めて作られるようになりました。

米国の調査会社、ウォーラーズ・アソシエイツは、3Dプリンターの市場規模は、2016年には約60億ドルにまで拡大すると予想しています。1 1980年代に登場した3Dプリンターは、過去10年で爆発的な広まりをみせ、アーンスト・アンド・ヤング社によると、調査対象企業の1/3が製造過程に3Dプリンターを既に利用していると回答しています。2さらに今後に目を向けると、世界的な調査・アドバイザリー企業であるガートナー社は、2020年には、世界の製造施設の75%で、完成品の製造に、治具等の3Dプリント部品が使用されるようになると予想しています。3

実際にDXVでは、3Dプリンターを駆使することで、既成概念にとらわれない発想で、ものづくりが可能となりました。

DXVの挑戦

DXVの挑戦 DXVおよびアメリカンスタンダードのデザインチームを統括するLIXIL Americasのバイスプレジデント、ジャン・ジャック・エナフ(Jean-Jacques L'Hénaff)は、チームに難題を投げかけました。人と水との新たな関わり方を提案するべく、これまでの水栓金具の常識を打ち破る、まったく新しい形状とデザイン、そして顧客体験を生み出すという課題を与えたのです。水栓金具に関しては、これまでは特注の場合でさえ、似たようなデザインが多いという現状がありました。顧客層のニーズに応え、これまで想像もしなかったようなデザインの水栓金具を提案すること、それが目標でした。

目標達成に向けて、デザインチームが、直接金属レーザー焼結法(DMLS)と呼ばれる3Dプリンター技術を試しているとき、アイデアが文字通り、形になり始めました。金属粉末が3Dプリンターのレーザーで固められ、何層にも重なっていく中で、漠然としていたアイデアが具現化していったのです。

3Dプリンターでは、複数の製法があり、熱溶解積層法(FDM)と呼ばれる造形方式が、自動車の交換部品やスマートフォンのケースといった様々な製品に利用され、広く知られています。一方で、直接金属レーザー焼結法(DMLS)と呼ばれる方式では、材料を溶かすのではなく、代わりにレーザー、つまり高熱と圧力を利用して、粉末状の材料を焼き固めて造形していきます。金属の粉末が徐々に形のある物体となり、デザイナーの思い描く形状を、継ぎ目や段差のない、滑らかな表面とともに生み出します。この技術によって、今まで不可能とされていた複雑な形状のデザインが可能になりました。

アメリカンスタンダードとDXVは、長年にわたって水栓金具の試作品製作において、熱溶解積層法(FDM)という造形方式を採用してきましたが、直接金属レーザー焼結法(DMLS)という新たな方式を取り入れたことで、デザインに新たな可能性が生まれました。エナフは、「DMLSという新方式を採用したことで、これまでと異なる角度から製品のデザインを検討することができるようになりました。さらには、新たなデザインを生み出す上で、製造上の制約も大幅に軽減されたのです」と言います。

3つのデザイン、Vibrato、Trope、Shadowbrookの誕生

こうした取り組みの結果、水栓金具の世界に新風を吹き込む3つのユニークなデザイン、Vibrato、Trope、そしてShadowbrookが誕生しました。どれも一見、物理的に不可能と思えるようなデザインが特徴です。

3つのデザイン、Vibrato、Trope、Shadowbrookの誕生 VibratoとTropeを初めて見ると、これまでの水栓金具のイメージとあまりにもかけ離れた形状に戸惑われるのではないでしょうか。これらのデザインの特徴である水栓の中心にある空洞部に、目がくぎ付けになり、水がどうやって優美なアーチを描く吐水部に到達するのだろうと、思わず考え込んでしまうことでしょう。

水がどう流れているのかがわかると、今度は全体のデザインに目を奪われます。Vibratoは、水が流れる通水路が吐水部ぎりぎりまで格子状になっており、Tropeは、4本のリボン状の通水路があり、中心部に卵型の空洞を作り出しています。

一方、Shadowbrookは吐水形状に着目したデザインとなっています。複雑な数値流体力学(CFD)ソフトウェアを駆使したデザインを採用することで、落ち着いて穏やかな印象を与えています。19に分かれた吐水口からほとばしる水は、小石の上を跳ねながら流れゆくせせらぎを模しています。

デザインチームは、新しいデザインにどんな反応が示されるのか不安でしたが、それはすぐに解消されました。2015年6月に、インテリアデザイナー向け発表会で試作品がお披露目された時の模様を、エナフは次のように述べています。「水が流れた瞬間、会場は完全な静寂に包まれました。そして、その2秒後に、人々が驚いて息をのむ音がその静寂を破ったのです」。

ものづくりへの将来的な影響

エナフは、3Dプリンターがもたらす変化について、様々な予測を行っています。いずれは3Dプリンターがデザインや製造業そのものに破壊的な変革をもたらし、3Dプリンティング技術による新しい生産プロセスが、従来の生産サイクルや在庫管理に取って代わるだろうと推測しています。

彼が想像する業界特有の変化の1つに、生産設備に関するコスト削減があります。3Dプリンターによって、今まで使われてきた大規模な設備の必要がなくなり、受注生産も可能になるため、在庫を大幅に圧縮できる可能性があります。水栓金具に関しても、受注後に必要な分だけを生産することで、未使用の在庫や売れ残る製品に投じる廃棄費用等も不要となり、無駄が減り環境への負荷も軽減されると考えられます。

DXVは、こうした新たな生産手法の開発を進める中で、変化を予測し適応していくだけでなく、より効率的なビジネスモデルの構築、そして新たなラグジュアリー製品の創造に向けて業界をリードしていきます。

LIXILが切り開く未来

LIXILが切り開く未来 私たちは、「何ができるのか?」「どうすればできるのか?」という問いを出発点として、さらなる挑戦を続けています。これらの疑問に対する答えを見つけることは、DXVというブランドだけでなく、業界全体にとっても、ものづくりの新たな可能性を生み出すことにつながります。新技術の活用は、古い物と新しい物、そして芸術と科学の間のシナジーをもたらします。DXVは北米市場において、イノベーションを推進し、業界初となる画期的なデザインの水栓金具を生み出しましたが、これは、こうした継続的な取り組みの第1歩なのです。

1 Wohlers Associates, Inc.; April 3, 2017; Wohlers Report 2017.
2 Ernst & Young GmbH Wirtschaftsprüfungsgesellschaft; 2016; How will 3D printing make your company the strongest link in the value chain? EY's Global 3D printing Report 2016.
3 Gartner; November 15, 2016; Gartner's annual predictions about the future of 3D printing.

SHARE

in

ストーリー

PageTop