「モノ」から「コト」へ:体験を創造するモノづくり

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更新:2021年8月19日

スマートフォンで簡単に「モノ」が購入でき、翌日には玄関先に届く時代となったことで、店舗はその場でしか体験できない「コト」を訴求するようになりました。例えば、子供向けの遊び場や犬を放し飼いにできるドッグラン、そして思わずソーシャルメディアに写真を投稿したくなるようなフォトジェニックなデザートの提供など、「遊ぶ」「楽しむ」などといったさまざまな体験を通じて差別化を図っています。これは、来店してもらうことで店舗や施設で消費してもらうという狙い以外に、特別なサービスによって提供される体験価値をロイヤルティにつなげることで継続的なビジネスチャンスを生み出す、という狙いがあるからです。

LIXIL「やきもの工房」xBnA Wallの「泊まれるアート」

顧客体験を重視してきたホテル業界では、近年ホテルそのものが提供する非日常体験を訴求することで差別化を図る傾向にあります。宿泊に限らず会議や展覧会などの設備を有する大型施設からニッチな体験を売りにする小さなデスティネーションホテルなど、そのスタイルは様々です。

なかでも、「泊まれるアート」がテーマのBnAホテルは実験的な宿泊型アート施設を展開しています。一つとして同じ客室がなく、気鋭のアーティストたち一人ひとりが部屋の形、家具などを部屋ごとに作るため、それぞれの客室そのものがアート作品と言っても過言ではありません。ここではアート作品の中で過ごすという、非日常的な宿泊体験をゲストに提供するとともに、宿泊費の一部をアーティストに還元する世界初のシステムを導入し、オープン以来国内外のアート愛好者から注目を集めています。

高円寺、秋葉原、京都に続き、2021年4月に同ホテルの4件目となる「BnA Wall」が日本橋にオープンしました。三井不動産を始め多くの企業がこの新しい試みに協力していますが、LIXILも技術提供と製作協力を通じ、アート作品誕生の一翼を担っています。

日本六古窯のひとつで、千年のやきものの歴史を持つ「常滑」にあるLIXILの「やきもの工房」(旧ものづくり工房)¹では、伝統技術の復原と伝承だけでなく、クリエーターとのコラボレーションを通じて、やきもの技術のイノベーションを推進しています。長年に渡って受け継いできたモノづくりの精神を通じ、やきものの可能性を広げる挑戦を続けています。

LIXILと「BnA Wall」の客室を担当するアーティスト達とのコラボレーションが始まったのは、2018年でした。LIXILの得意とする量産の開発とは相反するアプローチが求められた本プロジェクトでは、アーティストが創造したい世界観やBnAが提供する価値をヒアリングしながら、それを具現化することにありました。タイルややきもの(セラミック)技術の活用や、水まわりの技術を活かした試行錯誤を繰り返し、その結果、これまでにない芸術性の高い作品の数々の誕生に貢献しました。

「海鼠釉」を採用したオリジナルタイルがあしらわれた客室

「東京の地面を写し取る」というコンセプトの客室では、アーティストのリクエストした多彩な絵柄と独自の風合いを持つ釉薬「海鼠釉」(なまこゆう)を採用しました。

まずは3Dスキャナーで地面のデータ化を行った後、データを基にしたマシニング切削によって、一枚一枚絵柄の異なるタイルを制作しました。また、従来は火鉢や食器などに使用されてきた「海鼠釉」には、「貫入」(かんにゅう)という小さなひび割れが起きることから、ホテルの客室の床タイルとしての強度や耐久性を持たせるために、独自配合した釉薬を開発しました。その結果、アーティストの希望に応えつつも、実用的で、意匠性に富んだオリジナルタイル100枚によって、世界に二つとない客室が誕生しました。

また、壁面がタイル張りの客室には、一つとして同じ形状のものがなく、異なる質感で表現された白いタイルに加え、作品中の女性の顔もすべて綿密に計算されたタイルで構成されています。タイルは焼くと大きさが変わるという特性があり、それを熟知した高度な造形技術によってアーティストの世界観を表現しています。

LIXILのセラミックの高い造形技術は、その他にもセラミック製の照明の曲線を忠実に再現し、また、立体ホテルマップ(フロア案内図)の製作でも活かされています。

2016年にHOUSE VISION 2で発表されたLIFECORE(住まいの水まわりインフラを一括りに配置・工事できる画期的なシステムユニット)も採用されています。元々はオフィス向けに建設されたビルの用途をホテルに変更するにあたり、排水箇所に制限があった建物に水まわりを設置する必要がありました。建築物の用途変更に伴う需要とその市場規模を視野に、自由に設置ができる商品としてLIFECOREの実用性の検証を行っています。

LIFECORE( 住まいの水まわりインフラを一括りに配置・工事できる画期的なシステムユニット )

細分化されたニーズに応えること

LIXIL Water Technology Japan 事業企画部 部長 兼 新規事業PJリーダー浅野靖司はこう言います。「人口の減少に伴い新築への需要が減ってきていますが、一方で今ある資産を活かすリノベーションやリフォームの需要を活性化させることで、この市場を伸ばすこともできると思います。既に持っている資産を活かしたいという顧客のこだわりが、今後もっと強くなると予想されています。リフォームをきっかけに、新しい暮らし方や憧れのライフスタイルを実現し、新築時を超えるような新たな価値の創造が可能だと考えます」

日本のエンドユーザーのライフスタイル、ライフステージ、家族構成や収入、などさまざまな要因によって住まいへのニーズも多様化しています。BnAホテルでの挑戦は、これまで多くの人が求めるものを作る大量生産から、多様なニーズや新たな需要に柔軟に応える、少量多品種生産への挑戦でもあります。その中でLIXILも多くの学びを得ることができました。BnAホテルとLIXILに共通するもの、それは空間作りを通じた体験価値を追求することにあります。

従来の大量生産の考え方では実現が難しいとされる要望に対しても、デザインや開発、そして営業担当などが一丸となってエンドユーザーが想い描く「住まいの夢」を作りあげていくことには、多くの可能性が秘められています。「『やきもの工房』は建築家やデザイナーなどのクリエイターとのコラボレーションがあってこそ機能します。100年以上にわたって培ってきた焼き物技術をベースに、クリエイターの方々の斬新なアイデアや挑戦的な要求に応えるために日々実験を続けています」とLIXIL Water Technology Japanデザイン・新技術統括部 統括部長 白井康裕はいいます。「LIXILは『世界中の誰もが願う、豊かで快適な住まいの実現』を目指しています。自宅で過ごす時間が増え、新たな需用が生まれてくるなかで、我々の持つ技術、製品そしてデザイン力を活かすことが新たな価値の創造につながると考えています。今回得た学びを活かし、使う人が求める、最高のものを作り続けることに、時代が変わっても色褪せないモノづくりの精神があると考えています」

LIXIL × BnA LeadersTalk


>> 「やきもの工房」とは

ものづくりの原点と未来をさぐる

やきものの街で培った“ものづくり”の伝統や技術を、製品や資料を通して紹介します。歴史的建造物の再生・復原への協力や、芸術家、建築家など、さまざまな分野の人との交流によって、新しいやきものづくりに挑戦します。

https://livingculture.lixil.com/ilm/ceramicslab

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