ポール・フラワーズに聞く―水のテクノロジーとは

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更新:2016年6月3日

世界最高レベルの美しさを追求したキッチン、バスルーム 用の水まわり製品で知られるグローエで、デザインチームを率いてきたポール・フラワーズは、LIXIL Water Technologyのチーフ・デザイン・オフィサーに就任しました。家の中で最もプライベートな空間ともいえるバスルームのイメージを、デザインやテクノロジー、そして社会的な側面から、LIXILがどのように再構築していくのかについて、フラワーズは次のように語っています。

バスルーム製品やキッチン金具がならぶニューヨークのグローエのショールームで、フラワーズは展示されている商品の前で時折立ち止まりつつ、それらのデザインやテクノロジーにまつわる話をしてくれました。アボリジニの人々に伝わる小枝を利用したヘッドマッサージに着想を得たシャワー、人間の体の形に合わせたひし形のシャワーヘッドに加え、シャワーの角度を変えることで、梱包資材を大幅に減らし、環境負荷の低減につながった事例についても話がおよびました。

フラワーズは、このような商品が開発されたのは、従来のバスルームが進化していく自然な流れであったと考えています。通信技術の発達により、家のスマート化が進んできたことで、消費者が考える水まわり製品とは、単に体をきれいにするための道具だけではなくなってきているのです。

バスルームは、より快適で、感覚的かつ知的な空間となってきています。テクノロジーを生かした水まわり製品は、ユーザーの日常の行動パターンを理解し、水の消費量を減らすことができるようサポートしてくれます。歯磨きはもちろんのこと、ホームスパを楽しみながら、ボタン一つでの水流を調整することで、環境負荷を軽減することができるのです。家のスマート化の進展とともに、斬新なデザインやデジタルツール、そして貴重な自然資源を守るための環境性能が、今後の水まわり製品とその使い方の鍵になります。

デザイナーは何をする仕事なのかとよく聞かれるのですが、デザイナーはストーリーテラーだといえます。形を通じてストーリーを表現し、お客様と製品との関わり方を導き、美しい造形の中に存在するテクノロジーがどのような役割を果たすのかを伝える役割を果たしています。私はこれを製品の心理学と呼んでいるのですが、水栓やトイレ、シンクなど何であれ、まずお客様が何を求めているのか理解し、そのニーズに見合った形で体に動きになじむ製品をデザインします。

2013年にLIXILが グローエを買収したことにより、私は1つの大きなブランドのデザインリーダーから、LIXILで様々なブランドを担当する立場へと変わり、現在は、すべてのデザインスタジオを統括しています。つまり私の仕事とは、最高の技術と創造性を持つ人材を見つけ、リスクを恐れず最先端の技術やトレンドを取り入れ、すべてにおいて最高の品質を目指すデザイン中心の文化を作ることです。このデザインのDNAは、すべてのブランドに浸透しています。

バスルームはこれまでプライベートな空間でしたが、このコンセプト自体が新たな方向へと向かっています。例えば、かつては調理し、食事を支度するだけの機能的な空間であったキッチンが、料理を用意しておもてなしをしたり、食事を楽しむ場所へと変化したのと同様に、バスルームはより開放的な空間へと変化を遂げています。キッチンの場合、こうした変化と共に、高級換気扇やレンジフードなどの新たな商品が生まれました。

同様に、バスルームはリビングとの一体化が進んでおり、デザインにも変化が生まれています。バスルームのスペースの広がりと共に、デザイナーは新しいアイデアや素材、テクノロジーを試すことができるようになりました。バスルームとリビングを遮る壁が取り除かれることで、流れるような開放的な空間が生まれています。一方、壁がないことで水音が問題となってきますが、こうした変化に対応するため、私たちは水音を抑えた静かなトイレやシャワーの検討を進めています。

私たちが最も注目しているのは、水まわり製品を使用する際のお客様の「体験」です。バスルームを身体を洗う機能重視の空間から、感覚が刺激されるようなプライベート空間へと変化させてきたのは、こうした考えによるものです。今後は、生活をさらに豊かにする体験を提供したいと考えています。グローエではキャンドル製品を発売しましたが、将来的にはタイルに埋め込まれたポリマーから香りがするようなアロマ製品も生まれるのではないかと思っています。

また、今後、テクノロジーはより能動的な役割を担うことになり、例えば水まわりでのユーザーの健康状態のスマート診断が可能になると思います。何を食べたか、どのようなライフスタイルの変化があったかといったデータをトイレから取得できるようになり、生活に大きく影響を与える可能性があるのです。もしかすると、このデータを基に、近くの店にヘルシーな食べ物を注文できるようになるかもしれません。また、渋滞に巻き込まれたとしても、車のGPSがバスルームのスマートデバイスとリンクしていれば、帰宅した時に、丁度良い温度にお風呂を沸かしておくこともできるでしょう。

さらに、健康状態をモニターするために、カメラや音声認識技術を活用することもできるでしょう。テクノロジーは私たちを圧倒するものではなく、私たちが新たな体験ができるよう手助けしてくれるものなのです。このような変化はLIXILのような、リビングテクノロジーを追及する企業から生まれてくると考えています。私たちは、バスルームをはじめとした水まわり製品において、大きな変化を生み出す絶好のポジションにあるといえます。

例えば、サステナビリティとバスルームという話になると、低流量の水栓を使用したり、制限装置によって水量を減らすことに目が行きがちです。水流を減らすだけであればどの企業もできることです。私にとってサステナビリティの最大の課題とは、いかに水量を減らしながら、お客様にすばらしい体験と「エコの楽しみ」の感覚を味わっていただけるかということなのです。

シャワーで髪や体を洗う際には何リットルという水を無駄にしがちです。だからこそ、私たちはデジタル停止ボタンを備えたF-デジタルラインなど数々の節水につながる製品を作ってきました。ホッケーのパックのような形をした停止ボタンを押すと水が止まり、もう一度押すと同じ温度で水が流れます。また、流量を50パーセントカットするエコボタンもあります。

これらのイノベーションは、どうすればお客様の「体験」を犠牲にすることなく、より少ない資源でより大きな効果を生み出すことができるだろうか、という問いかけから始まりました。上から人間の体の形を見ると、平均的な体形は円形をしていないにもかかわらず、シャワーヘッドの形は円形であることに気付いたのです。「レインシャワー ネクストジェネレーション エコ」シリーズのひし型のシャワーヘッドはこの発見から生まれました。このシャワーヘッドによって、水が体に効率よくあたり、壁やフロアにあたって多くの水が無駄になるのを防ぎます。

さらに、製品からムダをなくす努力も常に続けています。このアプローチによって、普通では考えられなかったようなことにも挑戦することができました。たとえばシャワーヘッドの角度です。 傾斜を平均の45度から7度に変更することによって、いくつかの製品の梱包を50%減らすことができました。つまり、2倍の製品をトラックや飛行機に積むことができるようになり、非常に大きな輸送費と二酸化炭素排出量の削減につながったといえます。サステナビリティを向上させ、資源の消費量を減らすためには、まだまだできることがたくさんあるはずです。水の使用量を減らすだけではなく、より大きな視点から地球のあらゆる資源のために何ができるか考えるべきだと思います。

少し前までは、バスルームの「テクノロジー」といえば異なる噴射口が選べるダイヤルがついたシャワーヘッドのようなものだったかもしれません。テクノロジーやIoT(モノのインターネット化)がバスルームに変化をもたらしている今日から見ると、随分昔の話のようです。新たなテクノロジーによって、LIXILは高齢者向けに進化したグリップやわかりやすいグラフィックス、タッチコントロールを備えた製品を生み出すことができました。また、プログラム可能なサーモスタットは、ユーザーが好む温度設定を記憶することができます。加えて、グローエのパワー&ソウルラインのボコマスプレーは、何百年もの間、アボリジニの人々が受け継いできた小枝を使ったヘッドマッサージが体感できるジェット噴射が搭載されており、古いものと新しいものを効果的に融合させています。

テクノロジーの進化は急激な変化につながり、問題が生じる場合もあります。私たちはどこにでもテクノロジーが存在するという状況を快く思わない人もいることを忘れてはいけません。バスルーム内のすべてをデジタルでつなげようとする前に、テクノロジーの本来の目的は何なのか、どのような価値を私たちの生活にもたらすのかという質問を常に投げかけなければなりません。まずテクノロジーありきでは、目的のない、テクノロジーのためのテクノロジーになってしまうことを心に留めておく必要があります。

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