米国に残る深刻な汚水問題 政府と企業が住民と一体で解決に挑む

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米国南部のブラックベルト地帯1。木々や草原といった大自然が残る同地帯に点在するコミュニティには、先進国とは思えない衛生課題があります。アラバマ州の低所得世帯の約8割の家庭で、トイレが公共の下水道につながっていません。

「以前は、孫たちにクリスマスプレゼントを買うか、トイレから汚水が逆流してこないように浄化槽を清掃してもらうための資金に充てるのか、という選択をせねばなりませんでした」

アラバマ州ラウンズ郡に暮らすPerman Hardyさんは、毎年クリスマスが近づくたびに、そうした選択に思い悩んでいました。アメリカの人口の約25%もの人びとは自らの敷地内で汚水処理をしなくてはならず、その費用も各家庭で賄う必要があるといいます。これは、アラバマに限った話ではなく、ニューヨークやネバダ、ミシガンやハワイなど、米国の他の地域でも同様に衛生課題を抱える人たちがいます。

トイレの汚水対策を複雑にしているのが、ブラックベルトという名前の由来でもあるこの草原地帯特有の粘土質の土壌です。排水が土中に浸透しにくく、雨量の多いこの地域では従来の浄化槽では、未処理の排水があふれ出して、住居の中に逆流してしまうのです。

この地域の人びとは何十年にもわたって、この土地で代々受け継がれてきた衛生課題を抱えて暮らしてきました。Hardyさんは他の多くの住民たちとともに、地域の人びとを苦しめてきた難題の解決に立ち上がりました。アラバマ州保健省の支援を得て、水まわり設備の技術を持つLIXILなどの民間企業もパートナーとして協力しています。

未処理の汚水により健康への懸念も

排水を衛生的に処理するためには浄化槽が欠かせません。しかし、この地域に暮らす家庭のほとんどが従来の浄化槽を購入・維持するための費用を捻出することができないのです。地域特有の粘土質の土壌でも使えるように設計された高機能型の浄化槽は、通常の製品よりも高価であるため、なおさら手が届きません。

そのため、多くの家庭ではやむなく、トイレの排出口にプラスチックの配管を繋ぎ、裏庭や近くの森に直接排水する「直管方式」(”straight-piping”)を使っています。しかしながら、直管方式では未処理の汚水が地面に流されるため、同郡の3割以上の家庭で土壌から屎尿が検出されています。また、浄化槽などのシステムを導入している家庭は、莫大な費用をかけなくては衛生環境が維持できないのです。

特効薬のない厳しい現実、官民連携で道を開く

こうした汚水問題を一夜にして解決できる特効薬はありません。住民たちの代表となったHardyさんは、アラバマ州公衆衛生部門のSherry Bradleyさんの協力を得て、「Black Belt Unincorporated Wastewater Program(ブラックベルト未整備排水プログラム)」を立ち上げました。住民、政府や企業が一体となって難題の解決をめざそうというプロジェクトです。

「汚水問題の解決は可能ですが、そのためには皆が協力して一体的に取り組むこと必要があります」と州当局のBradleyさんは言います。

このプロジェクトには、LIXILが民間企業として最初に参加を表明しました。さらに、LIXILは、地元の南アラバマ大学、水まわり設備の衛生と安全を推進する国際的な業界団体であるIAPMO(International Association of Plumbing & Mechanical Officials)や、この分野における専門知識を持つ排水処理設備メーカーのフジクリーン工業に参画を促し、連携体制を構築しました。

「パイプ内からゴボゴボという音が聞こえてきたら、それは浴槽に未処理の汚水が逆流してくる前兆だよ」。公共セクターとの連携を担当するLIXIL Public Partnersで、渉外部門のリーダーを務めるTroy Benavidezは、ラウンズ郡の住民たちと会ったとき、彼らが孫たちにそう警告していることを知りました。

「トイレを詰まらせたりしないよう、使用済みのトイレットペーパーを流さずに廃棄している」、「夏の盛りの時期は、家の中に悪臭が入り込んでこないように窓を閉めている」と話す住民もいました。

下水道は、米国のような先進国ならば、整備されているのがあたりまえともいえる基本的な社会インフラです。しかし、実際には、ラウンズ郡にはその恩恵が及んでいません。

「水まわりの分野で専門性とノウハウを持つ当社ならば、水と衛生に関する課題の解決に向けて力になることができると考え、協力を表明しました。LIXILではグローバルな衛生課題の解決に取り組んできましたが、開発途上国だけではなく、米国でもそれが求められるとは思いませんでした」とBenavidezは言います。

全米各地の汚水問題 ラウンズ郡での取り組みが解決のモデルに

ラウンズ郡で深刻化する衛生課題を解決するには、各家庭の状況に応じたアプローチが必要です。地域のニーズに応える方法やソリューションを調べるため、現在、100世帯を対象に様々な解決策を試行する実証実験が進んでいます。

試験運用されているソリューションの中で期待されているのが、フジクリーン工業が提供する排水処理システムです。複数のチャンバーから構成される小型のタンクで、汚水を逆流させることなく、機械的なろ過と生物ろ過方式を組み合わせて排水処理を行います。

LIXILは、節水型の衛生機器を提供しています。住民にとっては、水道代が節約できるのはもちろん、節水によって、処理しなくてはいけない排水量を減らす効果もあるのです。Benavidezはこのように説明します。「これまで、汚水が垂れ流しにならないように排水を管理することが大きな課題でしたが、処理を必要とする排水を減らすことで浄化槽への負担を軽減し、さらに水や電気代金の節約につながったのです。これは、大きな成果だといえます」

米国では下水道が利用できず、汚水の被害に悩む地域が他にも多くあります。水の安全推進を目的に政策当局、企業などが参加する米国の非営利組織、US Water Allianceの報告によると、米国内ではおよそ220万人が安全な水や適切なトイレ、浄水設備を利用できていない2とみられています。

ラウンズ郡のプロジェクトは、他の地域においても、課題解決のモデルケースになる可能性があります。このプロジェクトは、米農務省から200万ドルの補助金を受けて始まり、さらにアラバマ州ブラックベルト地帯にある他のコミュニティにも取り組みを拡大するべく、同州では米政府のインフラ法基金3からさらに1億2200万ドルの資金を調達しています。

衛生環境の整備と発展に向けて

ラウンズ郡で起きている事態は、そうした未処理の生活排水による被害が、途上国での出来事ではなく、まさに先進国である米国の公衆衛生を脅かしているという現実を浮き彫りにしました。その一方で、課題の解決に向け、住民、政府、企業が一致団結して動き出す貴重な契機にもなっています。

プロジェクトに参画する民間企業側も、政府や公共部門との取り組みに新しい事業展開の可能性を見出しています。「私たちが持つ知見、能力、技術と革新性を生かしながら政策当局と協力し、水と衛生の分野における極めて難しい課題の解決に貢献することが私たちの目標です」とLIXILのBenavidezは話しています。ブラックベルト地帯をはじめ、米国の他の地域にも広がる衛生課題を解決することは簡単なことではありませんが、より豊かで快適な住まいの実現に向けて、LIXILのような民間企業が果たす重要な役割があります。

「たくさんの人たちがこのプロジェクトは最高だと言っていました」と、Hardyさんは自治体や企業による事態解決に向けた協力を高く評価しています。「そのおかげで、住民たちは今の暮らしを改善することができるという希望を持てるようになりました」

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