「デジタルの民主化」
従業員が自ら考え、行動する、新しい企業文化

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グローバルに成長を続ける企業となる上で不可欠とされるデジタル・トランスフォーメーション(DX)。デジタルをこれまで以上に活用し、よりアジャイルで起業家精神にあふれた企業文化の構築を目指すLIXILでは今、従業員一人ひとりが、部門の枠を超えて、自らの業務を見直し、創意工夫をしながら、自律的にデジタル化を推進していく「デジタルの民主化」が急速に浸透しています。

「失敗を恐れずチャレンジする気持ちが生まれた」「アイデアがどんどん湧いてくるようになった」「次に進む活力になっている」ー。アプリケーション(アプリ)開発を手掛けた従業員の言葉からは、自分が開発した業務用のアプリが現場で使われるようになったことで、自らが業務プロセスの改善に貢献したという達成感、そしてこれからも自発的に行動し、課題を解決しようとする強いチャレンジ精神が伝わってきます。

従業員たちの取り組みから生まれたアプリはわずか1年間で2万件を超え、そのうち約860のアプリがLIXILの正式な管理ツールとして、様々な現場で業務改善に役立っています。開発者のほとんどは、デジタル部門などの専門知識を持った従業員でありません。しかし、デジタル部門が驚くような、現場ならではの知恵を生かした画期的なアプリも誕生しました。

業務に最も精通した現場の担当者が自ら課題を見つけ、いかにデジタルを活用して課題を解決できるのかを考えることで、これまでにないスピードで業務プロセスのデジタル化が進んでいます。そして、文系出身の事務職や製造ラインの担当者など、本来ならデジタル業務を手掛けることがほとんどない多くの従業員たちが、アプリを開発するという新たなデジタルの力を手に入れたことで、自らの可能性を広げているのです。

「市民開発者」が活躍、新しい企業文化を醸成

LIXILでは2021年から、プログラミング言語などを必要としない「ノーコード」でアプリ開発ができるツールを日本国内の全従業員を対象に、先行して導入し、今後は全社へと広げていく予定です。このような「デジタルの民主化」に向けた取り組みを通じて、誰もがデジタルを活用して自らの課題を解決し、業務プロセスのデジタル化を推進することができます。そして、自分の手で業務を改善し、新たな価値を生み出し、現場に変革を生み出すことができるという感覚を得ることは、従業員の仕事に対するマインドセットや行動の変化にもつながります。こうした従業員の姿勢こそが、組織と人のさらなる成長と発展の基盤となると考えているからです。

ノーコードを活用する非デジタル部門のアプリ開発者は、IT用語で「市民開発者」(Citizen Developers)と呼ばれ、彼らの活躍は今後、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の成否を握る重要な条件のひとつと言われています。

実際に、マッキンゼー社の調査レポートによると、ノーコードあるいはローコードのツールを積極的に取り入れ、「市民開発者」に権限を与えている企業は、そうでない下位4分の1の企業と比較して、イノベーションの創出という点において33%高いスコアを獲得しています1。しかしながら、ドリーム・アーツ社の調査によると、DXを推進している企業であっても、このようなツールを導入済みの企業は全体の19.3%にとどまっているのが現状です2

LIXILで急速に広がっている「市民開発者」推進の取り組みは、ノーコード開発ツールをいち早く社内に取り入れたというだけでなく、それを通じて従業員たちの間に自発的な挑戦意欲が高まっているという意味でも、日本国内の大企業ではあまり例を見ない先進的な成功例と言えます。

目の前の問題は自分で解決 「アジャイル」な取り組みを実現

社内の「市民開発者」たちがアプリ開発をどのように考えているのか、彼らの声を聞いてみましょう。

キッチン洗面事業部 金武仁美

キッチン洗面事業部の金武仁美(洗面開発部洗面提案グループリーダー)は、「失敗を恐れずチャレンジし、アジャイルに問題解決に取り組む起業家精神を養おうという会社のメッセージを身をもって感じることができました」と話しています。

金武は、旧来より利用していた社内で商品開発の依頼を受けるシステムにおいて、システム改修に時間がかかる状況を改善できないかと考え、ノーコード開発ツールで新たなアプリを開発しました。

「以前は業務システムの改修が必要になるとデジタル部門に依頼し、長ければ数カ月待つこともありました。それなら、自分たちで一からアプリを作ってしまったほうがいい。そうすれば必要なときにすぐに改修することができるうえ、現場の声をよりリアルに反映したものになると考えました」

ノーコード開発ツールはアプリ作成にかかる時間を大きく短縮するだけではなく、従業員のやる気と自主性の向上にもつながっています。金武は「困ったと感じたとき、自分の行動ですぐ解決できる手段があるというのはとてもありがたいことです。部内も活性化し、よりアジャイルな働き方ができるようになったと感じています」とも話しています。

総務部 野間口早紀

運行記録とアルコールチェックの管理ができるユニークなアプリを開発したのは、総務部の野間口早紀(ジェネラルマネジメントグループ主査)です。部署ごとに運用形式が異なっていた社用車や営業車の運行記録を一本化すると同時に、アルコールのチェックと一緒に管理できるようになっており、関連会社も含めた全拠点で、この野間口が開発したアプリが活用されています。

「ノーコード開発ツールを手にしてからは、日常の業務の中で、アプリで解決できそうなものが結構多いと気づくようになりました。アプリを作ることはとても楽しく、これからもいろいろなことにチャレンジしたいと考えています」と、野間口は自らに起きた変化を語ります。「自分が手がけたアプリを多くの人に使ってもらい、喜んでもらえるのは働くモチベーションにもつながります。制作する過程で、他の部署の人たちと交流できるのもいい刺激になりました」

タイル事業部 山田陽祐

入社3年目の若手従業員、タイル事業部の山田陽祐(タイル製造部 伊賀上野工場製造課)は「自分のような若手でも自由にアプリを開発させてもらえるのは、とても恵まれた環境だと思います」と語っています。

生産現場で働く山田は、予測困難だったタイルに加飾するインクの在庫数を生産予定数などとリンクさせ、適切に管理できるタイルインク残量記録アプリや、目視することなくタンクの残量を管理できるアプリなど、いくつも開発しました。

「日々の業務の中で疑問に感じたことを解決するために、いろいろなアプリを開発しています。現場での課題は多く、それを解消するためのアイデアもどんどん湧いてきて、すべて実現できないのが残念なほどです」

山田にとって、アプリ開発への取り組みは新しい学びの機会にもなりました。「アプリ開発を通じて、自分にとっては遠い存在だと思っていた事業部長に直接報告する機会もあり、激励の言葉やアドバイスもいただきました。こうした社内の風通しの良さは、次に進むための活力にもなっています」

役員自らアプリ開発に挑戦、従業員とのコミュニケーション拡大

「デジタルの民主化」がLIXILで順調に広がっている理由の一つには、最高経営責任者(CEO)である瀬戸欣哉をはじめとする役員や管理職が、フラットで風通しの良い社内風土づくりに力をいれてきたという背景があります。

瀬戸は日頃から従業員たちとコミュニケーションをとり、若手と経営幹部の交流を推奨しています。自ら動き、現場に歩み寄る経営幹部の対応が、自発的なチャレンジに挑む従業員たちへの追い風になっています。

「市民開発者」推進の取り組みを現場に浸透させるため、LIXILでは一つの「仕掛け」を用意しました。まず、全役員がノーコードのアプリ開発ツールであるGoogle AppSheetの研修を受け、自らアプリを作成するという課題を与えられ、実行しました。役員たちが開発したアプリは、社内コミュニケーションツールであるWorkplaceなどを通じて全従業員に共有され、それを目にした従業員の間に、自分たちもアプリを開発できるという認識が生まれ、この取り組みが広がっていくという流れが生まれたのです。

デジタル部門 システム開発運用統括部 三浦葵

ノーコードのアプリ開発ツールを展開し、全従業員のデジタル人材化を実際に進めてきた三浦葵(デジタル部門 システム開発運用統括部 共通プラットフォーム部 リーダー)はこう話しています。

「全役員がまず先陣を切ってアプリ開発に挑戦したことで、自分たちもできるのではないか、どんどんやっていいんだという雰囲気が従業員たちに一気に広がり、会社のカルチャーが変わるきっかけになりました。デジタル部門が驚くような現場ならではの発想も少なくありません。誰もが今まで発揮していなかった才能を生かすことができるようになり、人材の活性化にもつながっています」

「もちろん、開発したアプリがLIXILの正式な業務アプリとして本番運用に入る前には、まずこの取り組みを支えているセンター・オブ・エクセレンス(CoE)チームによる審査があり、他のアプリと重複していないか、ガバナンスやセキュリティのリスクはないかなどを確認するというチェックがあり、野放しでアプリが稼働しているという状況ではありません」

自分で考え、自分で動くという起業家精神。問題が見つかれば自分たちで自発的に解決するというアジャイルなマインドセット。LIXILが目指すのは、こうしたトップダウン型の伝統的な体制ではなく、従業員が中心となるカルチャーで「この1年で急速に浸透した」と三浦は言います。

社内の垣根がなくなり、組織の一体感を促進

LIXILにとって、「デジタルの民主化」の目的はすべての従業員が自らデジタルツールを活用して新たな価値を創造する体験を共有、定着させていくこと、そしてそれが持続的に成長し続けるための新しい企業文化への変革を実現させることにあります。

ノーコードのアプリ開発は「LIXIL BEHAVIORS(3つの行動)」のひとつ、「EXPERIMENT AND LEARN(実験し、学ぶ)」の実践にほかなりません。従業員はデジタルという新たなツールを手にしたことで、自らがスピード感を持って課題解決、業務改善に取り組むようになり、こうした変化がアジャイルで起業家精神にあふれた組織づくりを加速させているのです。

ノーコード開発を推進するCoEチーム(左から稲木 柚香、岩﨑 磨、三浦 葵、岩﨑 みなみ)

「この取り組みは、複数の企業が統合して誕生したLIXILにとって、企業としての新しい一体感を生み出す効果もあったようです」と指摘するのは、全社におけるデジタル化推進を統括する岩﨑磨(デジタル部門 システム開発運用統括部 リーダー)です。

「ノーコードという共通言語を通じて従業員間で自発的に情報を共有する社会コミュニティが立ち上がり、そこで様々な部署で働く従業員同士がアプリ開発について会話しているうちに、垣根のようなものがきれいになくなってしまったのではないかと感じます。この「市民開発者」推進の取り組みは、正直、私たちの期待を上回るものでしたし、「デジタルの民主化」はLIXILの文化、働き方を変えるという意味で大きくプラスに働いたと実感しています」

さらに岩﨑は、「デジタルの民主化」について他の企業の方に聞かれれば、LIXILの方法論を惜しみなく伝えている、と言います。「これが日本の企業が元気になる方法として、一つのお手本になればうれしい。今後はグローバル企業として、海外拠点にも日本の成功例をどんどん広げていくつもりです」

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