瀬戸社長に聞く:LIXILの差別化戦略

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更新:2018年7月8日

LIXIL社長兼CEOの瀬戸欣哉が現職に就任してから約2年。この間、組織を簡素化し、業績を回復させ、低採算事業や子会社の売却を進めてきた。今後は、利益率の向上やグローバルな事業成長を視野にいれた経営に力を注いでいく。

瀬戸は2段階での成長路線を描く。まずは日本、欧州や米国など、成熟した市場において、商品の差別化で勝負する。激しい競争にさらされた先進国市場で力をつければ、LIXILが他にはない技術や商品を持つ企業として認知されることになり、ひいては長期的に成長が期待される開発途上国での成功にもつながるとみている。

「当社の強みは、商品の差別化にある。他にない商品は、まず成熟した経済国で高く評価される」と瀬戸は胸を張る。「日本や欧州、米国といった国々は短期的には非常に重要な市場だ。だが、長期的な視野で考えれば、中国やインド、アフリカはもっと重要になってくる」と強調する。

LIXILは2011年にINAX、トステム、新日軽、サンウエーブ工業、東洋エクステリアの5社が統合して生まれた。その後、2013年に米国の衛生陶器トップブランドであり創業から130年以上経つアメリカンスタンダードを買収。2014年には優れたデザイン性で知られるドイツのブランド、グローエを獲得した。LIXILは現在、世界150カ国で7万人超の従業員が働くグローバル企業だ。海外事業の伸びも好調で、6年前は全体売上に占める海外売上比率がわずか4.2%に過ぎなかったが、2018年3月期には全体の約25%1へと拡大した。

瀬戸は現在、収益改善に注力している。2018年4月にスタートした3カ年の中期経営計画では、利益率の向上を目指して、差別化商品やサービスを展開するために事業構造の改革に重点的に取り組んでいる。それにより、LIXILが優位性の高い企業となり、将来的にも持続的な成長が見込めると瀬戸は考えている。

中期経営計画の基盤を構築するにあたり、最初に取り組んだことは、事業ポートフォリオを見直し、バランスシートを改善することだった。「組織のフラット化と業績の改善は必要不可欠だ。難しいとか簡単だとかそういうことを言っている場合ではなく、取り組むべき課題だ」と瀬戸は自身の強い思いを語る。

瀬戸は最初の目標をクリアするため、負債の削減に着手。2年前の2016年3月期にはEBITDA純有利子負債倍率 が5.3倍だったが、2018年3月期には4.0倍へと改善した。さらに2021年3月期には2.5倍以下と、中期経営計画の目標はかなり大胆なものになる。

また、2016年3月期に3.7%だった事業利益率は、2018年3月期には4.5%となったが、3年後には7.5%を目標とする。

組織をフラット化する一環として、2016年には経営幹部の人数を半分に削減した。さらに、瀬戸がLIXILの要である水まわり製品と建材事業のCEOとなり、直接経営に関わっている。

瀬戸は、グローバルビジネスとして、水まわり事業を展開するLIXIL Water Technology(LWT)に最も大きな成長を見込んでいる。一方、建材事業を展開するLIXIL Housing Technology(LHT)は日本の住宅市場により注力しているが、短中期的にはその他のアジア諸国での成長を視野に入れている。

「当社全体の事業ポートフォリオをみると、短期的に高い利益率が見込めるのはトイレ、浴室、キッチン、水栓などを扱うLWT事業分野だと思う」と瀬戸はいう。「ある事業領域で生まれた良いアイデアを他の市場で活用しやすい環境にある」と、ドイツで水栓金具のトップブランドであるグローエ、米国の家庭用衛生陶器ブランドであるアメリカンスタンダード、そして日本の技術力に優れたINAXというブランド間のシナジー効果の可能性に言及する。

LWTの欧州と米州の年間成長率は、それぞれ今後3年間で5%を見込んでいるが、成長のスピードが早いアジア・太平洋地域では16%を見込む。

商品の差別化でより高い価格設定も可能となる。デザイン性に優れた商品で高級志向の消費者を掘り起こす考えだ。

「当社をさらにデザイン力の高い企業へと変革していきたい。LIXILは優れた技術を持っているが、さらに洗練された高いデザイン力が必要だ。この2年間は、デザイン力を強化するために、時間もリソースも費やしてきた。デザインに対する社内の意識改革も浸透しつつあると思う」

瀬戸は技術とデザインを融合させたことで大きな効果がでてきたという。例えば、INAXが開発したシャワートイレは、今では日本のどの家庭でもみられる。その日本の技術を搭載したシャワートイレをグローエがデザインし、欧州で「Sensia Arena」として商品化して販売を始めたら飛ぶように売れた。このような技術とデザインの融合のアプローチを、現在では、LWTの事業全体で取り入れている。今後は、この概念をLHTへと広げていく計画だ。

成熟した市場では、結果がすぐに跳ね返ってくる。また、厳しい市場で勝負することで、よりよい商品をつくる力を磨く機会に恵まれる。中期経営計画の目標を達成するには有利な環境だといえる、と瀬戸はいう。

「インドやその他のアジア諸国、および中東では、先進国市場とは違ったチャンスに恵まれる。そういった国々の消費者が優れた商品とはどういうものかを理解すれば、よりよい商品を求めてくるはずだ」と瀬戸は力を込める。

グローバル市場を見据えて、瀬戸は生産能力を拡大するために戦略的な買収を行った。インドの衛生陶器工場グループSentini Sanitarywaresやドミニカ共和国のASB Ceramica Dominicanaなどがその例だ。

また、キプロスではGrome Marketing、南アフリカではGrohe Dawn Watertechnologiesの全株式をそれぞれ取得し、完全子会社化した。これにより、戦略的なビジョンの共有だけでなく、グローバルレベルでのガバナンス強化を実現できる、と瀬戸は語る。

「難しい状況にある地域で会社を経営することになれば、それを100%コントロールするべきだ」と瀬戸はいう。国ごとに異なる基準のコーポレート・ガバナンスを適用するのは不可能で、「正しいことだとは思えない」と異を唱える。

また、たとえ業績が非常に優れていても、グローバル戦略にそぐわない事業であれば売却することをためらわない。例えば、LIXILは、LIXIL-Haier Housing Products や上海美特カーテンウォールといった合弁事業の全保有株式を売却し、高価格帯の事業拡大を進めている。また、世界中で著名な建物外装を手がけるイタリアの建材会社ペルマスティリーザの売却決定についても発表を行った。ペルマスティリーザの売却については、まだ手続き完了には至っていないが、同事業の売却により、LIXILの経営資源を重点事業に集中させることができるようになる、というのが瀬戸の考えだ。

瀬戸は、長期的な視野で戦略遂行に全力を注ぐ。そのことは大きな勝算の可能性を秘めている。エディンバラ・ネピア大学が発表した最近の研究結果によると、先進国および開発途上国の人口動態とライフスタイル傾向からいけば、今世紀中に20億件以上の住居が世界で必要となってくると予想している。

「3カ月ごとの四半期決算の目標達成のみに注力すれば、長期的に最も重要な目標を見過ごしてしまう。投資家の理解と支持を得るべく、今後も経営戦略と計画について説明責任を果たしていく」と瀬戸は述べる。

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