世界の衛生問題の解決に向けて決意を新たに

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更新:2019年11月15日

LIXIL インパクト戦略委員会 委員長
Jin Montesano

世界では、いまだに4人に1人が安全で清潔なトイレを使うことができない生活を送っています。そして、トイレの不足をはじめとする不衛生な環境に起因した下痢性疾患によって、命を落とす5歳未満の子供たちは、毎日800人以上にのぼります。衛生問題、それは世界に影響を与える大きな社会問題となっているのです。この課題を改善するには、私たちはいったい何から始めたらよいのでしょうか。

トイレメーカー1社だけで、どれだけの変化を生み出すことができるか

水まわり製品のリーディング企業であるLIXILは、トイレの提供を通じて、グローバルな衛生環境の改善に取り組んできました。私たちが有する専門知識や技術を活用し、トイレを設計、提供することで、世界の人びとの暮らしを変えることができるという強い思いが、私たちの活動を支えています。

「トイレメーカー1社だけで、どれだけの変化を生み出すことができるか」。これは、インパクト戦略に基づき、2016年にサステナビリティの目標を策定した際に、私たちが投げかけた疑問でもあります。

グループ会社であるAmerican Standardのエンジニアが、「SATO」と呼ばれる開発途上国向けのトイレを開発したのは2012年のことでした。「SATO」は、従来の汲み取り式トイレを進化させ、悪臭を軽減し、病原菌を媒介する虫を防ぐ機能を有しており、安全性と快適性の面において画期的な製品でした。さらに、低価格を実現しているのも大きな特長です。

この「SATO」の普及に向けて、American Standardは、米国でコーズ・リレーテッド・マーケティング(CRM)の手法を導入したキャンペーンを実施しました。このキャンペーンを通じて、複数のNGOと連携することで、バングラデシュやアフリカの人びとに「SATO」というまったく新しいソリューションを届けることができました。このように、新しく生まれたアイデアを、実際に、開発途上国の人びとの衛生環境の改善につなげることができたのです。

一方で、寄付やマーケティングキャンペーンを通じた取り組みには限界があり、グローバル規模で変化を生み出していくには、異なるアプローチが必要でした。

そこで私たちは、発展途上国向け簡易式トイレシステム「SATO」の事業をソーシャルビジネスとして展開し、収益性を追求しながら、衛生課題の解決を目指すという手法を選択しました。BOP(Bottom of the Pyramid)層と呼ばれる低所得階層の衛生環境を改善するには、まず、彼らの行動変容を促し、トイレを使うという習慣を定着させるところから始めなくてはなりません。トイレを寄付するのとは違い、利用者がトイレを設置することのメリットを理解し、お金を使ってトイレを購入するという決断ができるよう、促していく必要があります。LIXILでは、持続可能なビジネスとして「SATO」の事業化を行うことにより、規模を拡大し、社会に与えるインパクトを高め、よりスピーディーに衛生環境の改善を進めることができると考えています。

「SATO」の累計出荷台数は300万台に - 世界で約1,500万人の衛生環境の向上を実現

私たちは、こうした取り組みを加速させるべく、2016年に「グローバルな衛生課題の解決」の分野において「2020年までに1億人の衛生環境を改善する」という非常に野心的な目標を設定しました。この目標に対して、懐疑的な声が多く聞かれたのも事実です。

それから3年―11月19日の世界トイレの日を迎える今、目標達成には至らなかったという現実に私たちは向き合わなくてはなりません。残念ながら目標には届きませんでしたが、私たちは大きな進歩を遂げたと胸を張ることができます。意欲的な目標を設定しなければ、このように早いスピードで前進を続けることはできなかったと思います。特に、途上国で最もトイレを必要としている農村地域のコミュニティの人びとに、どうやってリーチするのかを学ぶことができたのは、非常に大きな収穫だったといえます。

そして何よりも、私たちが人びとの暮らしに影響を与えることができたのは確かです。2012年から世界に出荷された「SATO」は、累計300万台。世界で約1,500万人の衛生環境の向上を実現してきました。2019年9月時点で、アジア、アフリカ、南アメリカの27カ国で「SATO」が利用されています。

私たちが最も早く参入したバングラデシュでは、累計200万台以上の「SATO」が寄贈もしくは販売された実績があり、最大の市場となっています。今年、「SATO」事業はバングラデシュにて黒字化を達成するという節目を迎え、私たちが展開するソーシャルビジネスのモデルが機能することを実証できました。バングラデシュでは、過去20年にわたり、下痢性疾患の撲滅に大きな成果をあげており、子供たちの死亡数の減少につながっています。「SATO」による衛生環境の改善がその一助となっていると考えると、とても誇らしく思います。

2019年3月期において、世界全体での「SATO」出荷台数は、前年比67%増となる80万台となりました。今期は、出荷台数のさらなる伸びが予想されており、事業拡大に向けて、様々なパートナーとの連携も強化しています。LIXILは、UNICEF、ビル&メリンダゲイツ財団、国際協力機構(JICA)といったグローバルな組織とのパートナーシップをすでに構築しており、協働体制を確立しています。私たちは、「SATO」事業を持続可能なビジネスとして拡充するとともに、当初の「グローバルな衛生課題の解決」目標の達成時期を2025年に延期し、1億人の衛生環境の改善を実現するべく、取り組みを加速させていきます。

失敗をし、教訓を得て、その経験を生かして成功につなげていく。そのプロセスの中で、私たちは多くを学びました。想定より多くの時間を費やしてしまいましたが、現地では何が求められ、短期間でどのように事業拡大を図ることができるのかという知識を身に付けることができました。

1社でどれだけの変化を生み出すことができるか。私たちは今度こそ、その問いに答えることができるはずです。

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