変化の波をチャンスに変える強固な組織に

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更新:2020年9月30日

LIXILが長期的な成長を実現し、社会に貢献していくためには、何が必要なのでしょうか?LIXILはコロナ禍をどう乗り越えてきたのでしょうか?中期計画によって、どのように「ニューノーマル」への迅速な対応が可能になったのか。グローバルな事業の状況や組織の簡素化、従業員のエンゲージメントを高める取り組みなど、LIXILのさらなる成長にむけて何が必要なのか、CEOの瀬戸欣哉に聞きました。

LIXILの中期計画は2017年に策定されたものですが、新型コロナウイルスによってもたらされた「ニューノーマル」を踏まえた上で、今後、戦略の見直しを予定していますか。

「ニューノーマル」で変わる家族の過ごし方

戦略の見直しが必要だとは考えていません。中期計画で示した戦略があったからこそ、私たちは「ニューノーマル」における様々な変化に備えることができました。この戦略の柱の一つとして、「魅力ある差別化された製品の開発」を掲げてきましたが、人びとが自宅で過ごす時間が多くなったことで、先進的なテクノロジーやエンドユーザーの視点に立った意味のある製品デザインなど、当社の強みについて実感していただける機会が増えたのではないかと思います。加えて、中期計画の中で打ち出した戦略に基づき、従業員のモチベーションを高め、より機動的な新しい働き方ができるよう、積極的なサポートをしてきました。従業員が1週間に何万件ものウェブ会議ができるようITインフラを整備し、ソフトウェアや回線の増強など、事前に準備を進めていたおかげで、テレワークへの移行もスムーズに進めることができました。そして最も重要なのは、基幹事業に注力できるよう事業構造の簡素化を進めたことで、成長分野に経営資源を投入できるようになったことです。誰も想像できなかったスピードで、新型コロナウイルスの感染拡大と世界経済の停滞が進みましたが、このような環境下においても、私たちがこれまで推進してきたことが功を奏したといえます。

新型コロナウイルスは、LIXILのビジネスにどのような変化をもたらしたのでしょうか。

大きく変化したのは2点です。まず、需要面では、衛生面や健康面に配慮した製品により大きな注目が集まっています。日本をはじめ多くの国や地域では、毎朝早くに家を出て、夜遅くに帰ってくるという生活スタイルのために、「家は寝るための場所」と位置づけられてきました。キッチンをほとんど使わない人もたくさんいたのです。しかし、在宅勤務が増えて通勤時間が減ったことにより、多くの人が家の価値に気づきはじめました。住宅設備や建材を選ぶ際にも、健康面に配慮し、デザイン性の高いものを求めるようになっています。

次に大きく変化したのが、仕事の進め方や商習慣のデジタル化です。ウェブ会議を使って、時間を節約しつつ、デザイン案や設計図を見せたり、バーチャルで試作品を共有したりすることができるようになり、こうした変化はお客さまにも好意的に受け入れられています。また、以前は、実際に現地を訪問して採寸をするといった作業が発生していましたが、現在では、スマートフォンを使って、細かい採寸もできるようになり、購入プロセスを容易に完了できるようになっています。

LIXILのビジネスや生産においては、どのような変革を進めているのでしょうか?トレンドなどがあれば教えてください。

LHTでは生産効率を向上させ、
製品開発期間の短縮と収益力の強化を図る

住宅建材事業のLIXIL Housing Technology(LHT)では、プラットフォーム化戦略の一環として生産ラインの効率化を進めており、大きな成果を上げています。これによって固定費を下げ、より少ない投資で生産ラインを刷新することが可能になりました。この取り組みは、今期も継続するとともに、ブランド価値をさらに高めていきたいと考えています。大切なのは、お客さまにより良いデザインとテクノロジーを兼ね備えた製品を提供することです。

しかしながら、業界全体のより大きなトレンドにも目を向ける必要があります。LHTの最大の市場である日本において、新設住宅着工戸数はここ数年で減少していくと考えられます。また、今後の新築市場では、より長く使うことができる耐久性のある住宅設備が求められます。だからこそLIXILが提供する、質の高い差別化された製品が求められると考えています。また同時に、リフォーム市場は長期的に拡大すると見ています。水まわりの事業にも関連することですが、在宅勤務が増えたことで、エンドユーザーは自分が住んでいる家を改めて点検し、どこが改善できるか考えるようになっています。関心の高まりを示す一例として、LIXILのホームページのリフォーム製品ページは、これまでにないほどアクセス数が増えています。

水まわり事業については、デザインとブランド認知度の重要性を訴えてきました。このLIXIL Water Technology (LWT)の戦略について教えてください。

その通りです。デザインは製品の外観というだけでなく、ユーザー体験としても大変重要な要素です。デザインに関して中核的な役割を担っているのが、Chief Design OfficerであるPaul Flowers(ポール・フラワーズ)が率いるグローバルなデザインチームです。Flowersが、LIXILが様々な地域で展開するすべてのブランドの製品デザインを統括しているため、一貫性を保つことができます。些細なことのように聞こえるかもしれませんが、エンドユーザーの立場から見ると、自宅のキッチンは同じ色で統一されていた方が良いと思いませんか。例えば、LIXILのブランドで、オフホワイトの製品を使いたいと思ったら、同じトーンで幅広い製品を提供することができます。

LIXILのブランド戦略は、業界内で差別化を図るために重要です。製品を価格帯によって分けるのではなく、各ブランドに独自の個性を持たせています。例えば、都会的で洗練されたバスルームが好みの場合はGROHEを選んでいただけるかもしれませんし、もっと伝統的なデザイン空間にしたい場合にはAmerican Standardがふさわしいでしょう。シンプルなデザインと日本のテクノロジーを重視するのであれば、INAXを選ぶことになるでしょう。このように嗜好やライフスタイルによって区分することで、新製品や進出する市場でブランド価値を損ねずにビジネスの機会を追求することができます。

日本の美しい「水の文化」を体現し、洗練された空間をデザインするINAX S600

組織構造に関する様々な見直しを行ってきました。LIXILはこれによってどのように変わっていくのでしょうか?

私たちが目指すのは、組織をよりフラット化することで、従業員が自律的かつ効率的に働ける環境をつくることです。国内では、従来の支社、支店、営業所の構造の簡素化を進め、支店を廃止するなど、営業組織内の階層を減らし、効率化を図りました。さらに、経営幹部の階層も削減しました。これにより、私が入社した当時は114名いた経営幹部の数は、現在は24名に減少しました。また、ホームセンター事業を展開するLIXILビバとビル事業を営むペルマスティリーザの売却を決定し、事業構造の簡素化を図りました。ペルマスティリーザの売却は時間がかかりましたが、ようやく実現に至りました。基幹事業への注力を進め、成長分野に投資を行い、ガバナンスを強化するための重要なステップだと考えています。

加えて、2020年12月のLIXILの合併により、経営の効率化や経営資源の重複の削減、グループガバナンスの向上を図ります。豊かで快適な住まいと暮らしを実現するというLIXILの目標に向けて、起業家精神にあふれたフラットな組織を構築できるような様々な取り組みを推進していますが、この合併はまさにそれを象徴するものであり、非常に重要な意味を持つものです。

企業としての存在意義や社会貢献の重要性を強調されていますが、これまでの利益重視の姿勢からの転換ということでしょうか。

まさにその反対です。私たちは「世界中の誰もが願う豊かで快適な住まいの実現」を存在意義としていますが、現代社会ではそれを明確にすることが求められています。より多くの利益をあげるには、自社の存在意義を重視した企業文化を構築する必要があります。これは従業員やお客さまにとって大変重要なことであり、株主の皆さまからも、こうした考えに対する理解が深まっていると信じています。もし企業がより良い社会をつくることに貢献していれば、お客さまはそれに気づき、信頼してくれます。また、従業員のエンゲージメントを高めるためにも、この考え方は重要です。LIXILの従業員が、自分たちの日々の仕事は社会課題の解決につながっていると感じることができれば、会社はさらに成功し、すべてのステークホルダーに望ましい結果をもたらすでしょう。

簡易式トイレシステム「SATO」

これは、開発途上国向け簡易トイレシステムを展開するSATO事業が、急速な拡大を続けていることが証明しています。世界人口のうち20億人が、衛生的なトイレを利用できない環境に置かれていますが、LIXILは「SATO」ソーシャルビジネスを通じてこのような人びとにソリューションを届け、衛生環境の改善に貢献しています。これは決して簡単な課題ではありませんが、LIXILの重要な事業の一つです。これまでに、国内で販売する一体型シャワートイレの売上に応じて、SATOを寄付するキャンペーンを展開しました。LIXILの従業員はもちろんのこと、ビジネスパートナーの皆さまからも、この活動への賛同をいただき、LIXIL製品のプロモーションに積極的に協力していただきました。

前年度の成果を踏まえ、今後の展望についてお聞かせください。

今期は、これまで以上に強い逆風に立ち向かっていく必要があります。すでに進めてきた施策を強化し、コスト削減を継続するとともに、建築業界における取引先とエンドユーザーの両方のニーズに向き合い、新しい働き方を推進していく必要があります。また、世界市場の動向を注視し、LIXILの多彩なブランドポートフォリオを活用することで、新しい市場ニーズをいち早く捉え、成長機会につなげていきます。

さらに、私たちは、「世界中の誰もが願う豊かで快適な住まいと暮らしを実現する」という企業としての存在意義を体現していく必要があります。例えば、開発途上国向けの新たな手洗いソリューション「SATO Tap」の開発に成功し、普及に努めています。新型コロナウイルスの脅威が広がる中、手洗いの徹底が感染防止に非常に重要ですが、世界では、多くの人びとがこまめに手洗いをすることができない環境に置かれています。私たちは、まさに必要とされるタイミングで、この手洗いソリューションの開発、生産を行い、市場に届けることができるよう取り組んでいます。そして、このような事業を通じて、お客さまや従業員、株主の皆さまに対して、LIXILが果たすことのできる役割について示すことができると考えています。

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