真の価値をもたらすデザイン主導のイノベーション

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更新:2021年5月25日

Design Management Instituteの調査によると、デザイン重視の企業は、株価の伸びが相対的に高いことが明らかになっています。¹ デザインの力を、どのようにブランド構築やイノベーションの創出につなげていくことができるのでしょうか。トイレやキッチン、窓やドアなど、水まわりと住まいに関わる幅広い製品を扱うLIXILでは、デザインを経営に生かすための新しい挑戦が始まっています。

2020年1月に、LIXILのデザイン戦略をさらに強化するため、Chief Design OfficerであるPaul Flowersが東京、ニューヨーク、ロンドン、デュッセルドルフ、上海、シンガポールなど、世界各地に展開するデザインセンターや、全ブランドを統括するLIXILグローバルデザインチームを発足しました。LIXILとして統一したデザイン思考を反映できるよう、全てのブランドを1つの組織に統合し、組織全体の経営戦略にデザインを組み込めるような体制になりました。

国内で住宅用建材事業を手がけるLIXIL Housing Technology Japan(LHT Japan)のデザインセンター長である羽賀豊の下では、商品企画の段階からデザイナーが関わるデザインプロセスを推進してきました。新しくできた東京のLIXIL Design StudioでLHTを率いる羽賀は、こう話します。「家というものは一度買ったら、基本的には一生涯住むところであり、いつまでも快適に、常に満足して使ってもらうという根本の考えを大事にしています。これまで、私たちは家にまつわるあらゆるものを各々にデザインしていましたが、それに加えて、今はそれらが組み合わさって生み出されるデザインの総合力を重視しています。なぜなら一つの家に集約した時に生まれる“調和”が、家に住む人々に満足し続けてもらえる一番の要素だからです」。生活者のニーズを的確に捉え、デザインとテクノロジーを融合させることで、新たな価値を生み出す商品開発を加速させています。

明らかなアウトプットの変化へ

デザイン重視の新体制において、今までにない発想による、新商品が次々に誕生しています。

クルマ好きな社内のデザイナーによる、“クルマが主役のシンプルなカーポートを開発しよう”という発想から誕生したのが『LIXILカーポートSC』でした。

「従来のカーポートといえば、骨組みを十字に組んで、ポリカーボネートの屋根を載せてネジ留めをしていたため、どこか工業製品のような、重苦しい印象がありました。一方で、『LIXILカーポートSC』は、車庫としての機能はそのままに、屋根と柱しか見えないスタイリッシュなデザインを実現しました。従来のカーポートとは全く構造が違うため、商品化するには技術者や生産現場と連携し、これまでにない技術や設計方法を開発する必要がありました。まず、アルミ製の中空パネルを連結して、一枚板の屋根を柱で上から吊る新構造を実現し、40mmの薄さながら十分な強度を確保しました。ミニマルなデザインで、浮遊感のある、明るい印象と柱と屋根という最小の建築的要素のみでできているので、様々な住宅や周囲の住環境に調和します。何よりも停まっているクルマが主役として映える商品ができました」

さらに、窓が持つ本来の価値や役割をあらためて問い直し、 “いつでも外と内が視覚的にシームレスにつながる、開放的な心地良いリビング空間”を創り出すことを目的として、フレームが見えない新発想の窓『LWシリーズ』が開発されました。

「LWシリーズは、上下左右のフレームが室内から見えない“フレームインデザイン”で、1枚のガラス戸を横にスライドさせて開閉するという、まったく新しい発想から生まれた窓です。フレームが見えないということは当然新しいアシストハンドルの開発が必要となり、商品開発には技術者との密な連携が求められました。加えて、アルミと樹脂のハイブリッド構造を採用することで、自然光を多く取り入れることができ、圧倒的な眺望性を実現し、快適な空間を創造します。また、高い断熱性能で環境へも配慮しています」

「『スマート宅配ポスト』も良い例です。従来の宅配ボックスは箱としての存在感が重苦しく、いかにも工業製品らしい見た目でしたが、『スマート宅配ポスト』は細い2本の柱だけで立っているのが特長です。箱の容量はしっかりと確保しながら、下部には抜け感を生み出すことで浮遊感のある印象を与えます。住まいの外観と調和の取れたデザイン発想の商品です。当然この構造を実現するのには、技術者の力が大きく関わっていることは言うまでもありません。」この製品は、国内に限らず、海外でも高く評価されています。今年、ドイツデザイン評議会が主催する国際的なGerman Design Awardで、最優秀賞(Gold)を獲得しました。

デザイン思考が生み出す新たな可能性

「デザイン主導で描いたものを実際に製品化する場合、当然技術力がないと“絵に描いた餅”と同じで製品化はできません。ただ、技術主導だと、どうしても今ある技術からどういう商品を作るかという現実的な発想になります。しかし、『人々は何を望んでいるのか』という問いから出発すれば、ユーザーに驚きと喜びを与え、また市場のトレンドを動かすような、顧客中心の新しいイノベーションを生み出すことができます」

また、2019年の秋、デザインセンターとしては初めての試みとなる“先行開発のデザイン(アドバンスデザイン)”を一般に公開する企画展示「間の間(あいだのま)」を開催しました。「東京の街全体がミュージアムになる10日間」DESIGNART TOKYO 2019に出展し、洗練されたライフスタイルとファッションの街、代官山(東京都渋谷区)で開催されたこのイベントは、LIXILの新しいデザインアプローチを広く伝える場となりました。「イベントを通じて、様々な人たちと直接接する場を設けたことは、新たなデザインのヒントを得るチャンスにもなりました」と羽賀は振り返ります。「デザインとテクノロジーを活用することで、人と自然をつなぎ、暮らしと開口部の新しい関係を創造していくこと。これが、まさにLHT Japanが目指すビジョンです」

デザインと技術の連携が組織を強化する

デザイン起点の開発によって技術力が向上したことに加え、社内外の雰囲気も変わったと羽賀は言います。

「お客さまからは“こういうのが欲しかったんだよね”という声が数多く聞かれるようになり、エンドユーザーのインサイトがより浮き彫りになりました。技術者だけでなく、協力会社や生産現場といったさまざまな関係者がアイデアを出し合い、誰もがどこかワクワクしているように感じられます。最初は懐疑的だったメンバーも議論を詰めながら進めることで、ある瞬間に光が見えるとどんどんやる気になっていきます」

イノベーションを生み出し続けるのには、エンドユーザーへの提供価値を中心に考える必要があると羽賀は言います「ユーザーの感覚や感性、これが欲しい、といった視点を取り入れることで、デザインによる新しい価値を生み出す文化を飛躍させることができるのです」

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