入浴文化の変遷―日本人がお風呂に求めるものとは

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更新:2017年3月16日

日本人は世界に類を見ないほどのお風呂好きと言われますが、日本ではお風呂は身も心も清める場所から、保養や社交の場としての役割も担い、独自の発展を遂げてきました。「伝統的に日本人は、温泉にはさまざまな医学的な効果が期待でき、心身の癒やし効果があると、知っています」と温泉ソムリエ・アンバサダーの飯塚玲児氏はその理由を解説します。「日本には火山が多く、たくさんの温泉に恵まれていたことがまず根底にあり、その上で、高温多湿な夏、乾燥して寒い冬、花や新緑に彩られる春、紅葉が美しい秋と、四季を持つ風土も、温泉入浴を楽しいものにしてくれています。そうした温泉へのあこがれを身近に体験できるものとして、家のお風呂があると考えられます。身体の汚れを落とすことで気分を一新し、くつろいで心とからだの疲れやストレスをリセットすることで生まれ変わる、それが日本人にとってのお風呂なのです」。

2017年はLIXILがシステムバスルームの量産化を初めて50周年。日本のお風呂の歴史を振り返るとともに、時代やライフスタイルの変化を先取りするような、LIXILが目指すお風呂空間作りについて考察します。

お風呂の原点、温泉

© Yasuhiro Okawa全国に活火山が点在する日本には3,000を超える温泉地があり、古いものでは、縄文時代の遺跡から温泉が利用されていた痕跡が見つかっています。温泉の利用の歴史については、検証ができないさまざまな伝説や神話が多くの温泉地で語り継がれています。最も古い記録としては712年に編纂された日本最古の歴史書『古事記』や、720年に完成した『日本書紀』に温泉についての記載が含まれており、こうした文献を基に、兵庫の有馬温泉、和歌山の白浜温泉、そして愛媛の道後温泉が「日本三古湯」と言われています。

また、733年に編纂され、全国で唯一完本として伝わる『出雲國風土記』では、現在の玉造温泉を「一たび濯(すす)げば形容端正(かたちきらきら)しく、再び浴(ゆあみ)すれば、万病(よろずのやまい)悉(ことごと)くに除(のぞ)こる」と、土地の人が必ず効き目がある「神湯」と呼んでいたことを伝えており、温泉が古くから湯治を目的として利用されていたことがわかります。

では、日本人はいつ頃から温泉以外の入浴をしていたのでしょうか。6世紀の仏教の伝来とともに、沐浴の功徳を説いた仏教の教えが広まり、身体を洗い清めることは仏に仕える者の大切な業と考えられるようになります。奈良時代には、貧しい人びとに施しを行う行為の一つとして、東大寺や法華寺をはじめとする仏教寺院では施浴(せよく)が盛んに行われるようになりました。これらの施浴のほとんどは、現在のような浴槽のお湯につかる入浴ではなく、蒸気で身体の汚れを浮かせて洗い流す蒸し風呂でしたが、この施浴の普及が、その後の「銭湯」文化につながります。

江戸時代になると、お風呂の習慣や楽しさがさらに広く認識されるようになり、「銭湯」がまさに庶民の憩いの場所として繁盛するようになりました。江戸時代初期の銭湯は、従来の蒸し風呂に、浴槽に足を浸す程度の湯を加え、下半身をひたし、上半身は蒸気を浴びる「戸棚風呂」と呼ばれる仕組みでした。その後、明治、大正時代と銭湯の近代化が進み、木造であった洗い場や浴槽はタイル張りになるなど、今日の銭湯に近づいていきます。

© Mie Morimoto

内風呂の発展

日本人は明治維新とともにさまざまな西洋の生活様式を取り入れていきましたが、お風呂に関しては洗い場で汚れを流してからお湯につかるというスタイルを維持し、日本独自の入浴文化を発展させてきました。20世紀初頭の内風呂は木製あるいは鉄製が主流でしたが、タイル製造の発達とともにタイル張りのお風呂が人気となりました。

内風呂は江戸時代からある程度広まっていたとはいうものの、昭和期前半においても庶民は銭湯に通うのが常で、内風呂を持つのは裕福な家庭に限られていました。家庭で内風呂が一般化したのは第二次世界大戦後の高度成長期を迎えた頃から。それまではオーダーメイドで作られていましたが、住宅需要が急激に高まり、それまでの在来工法から高品質ながら工期が短く、手軽な浴室が求められるようになりました。こうしたニーズに応え、LIXILは1967年に、システムバスルームの開発及び量産化を開始し、内風呂の普及に大きな役割を果たしました。

自宅にお風呂があることが当たり前な豊かな社会となった今日、LIXILがお風呂づくりでめざすことはもはや単なる浴槽・浴室の提供ではなく、まさに「浴室という空間を演出することによる新しい生活者価値の提供」だとLIXILの浴室事業部 事業部長の深尾修司は話します。

製品開発をするにあたり、「社会的な背景や文化を理解し、一人ひとりの生活者の目線にならなければ、お客様のニーズは見えてこない」と深尾は断言します。そのため、LIXILでは念入りな行動観察に基づいた製品開発を行っています。例えば、人はなぜ温泉に行き、どういう価値を求めているのか。温泉成分の効能を求め、湯治のために行く人、日常生活からはなれてリラクゼーションを求めて行く人、美容目的の人など、温泉の価値を掘り下げます。同じリラクゼーションでも皮膚感覚の癒やしもあれば、山並みや海などの風景から視覚的に感じる癒やしもあります。

文化的・歴史的背景を理解した上で行動観察から洞察を引き出し、何に価値を置くかという傾向を見極め、技術とマッチングしてできたのが2014年に発売した「SPAGE(スパージュ)」。 "自宅にスパ(温泉)を作る"をコンセプトとし、肩湯や打たせ湯、そして四季の移ろいを感じさせる映像・音響といった五感で癒やされる付加価値の高い機能を搭載して今までの住宅のお風呂の概念を変えました。

ライフスタイルの変化に対応した浴室空間の創造

LIXILでは、2017年3月より戸建住宅用システムバスルームの主力シリーズ「Arise(アライズ)」をフルモデルチェンジし、シャワー中心の入浴スタイルに対応する「フルフォールシャワー」を提供し始めます。グループ会社のGROHEとの共同開発によって、大型シャワーヘッドを採用し、空気を含んだ大粒で柔らかいシャワーでワンランク上の心地よさを実現します。また、立ち姿勢、座り姿勢のいずれでもオーバーヘッドシャワーが楽しめるようシャワースライドバーの形状を工夫するなど、細部までシャワー浴のしやすさにこだわった仕様としました。子育てや介護、共働きなどで忙しい平日はさっとシャワーで入浴を済ませたい人びとにも、たっぷりとしたお湯の気持ち良さを体感していただけるバスルームを提案しています。

©HOUSE VISION LIXILでは創業以来、建築家やデザイナーと手を携え、機能性と洗練された美しさの融合を追求してきました。ライフスタイルや時代に合った製品で暮らしを豊かにしたいという信念は、LIXILが掲げるブランドプロミス「Link to Good Living」にも反映されています。2016年夏、LIXILは建築家 坂茂氏とともに、HOUSE VISON 2016 TOKYO EXHIBITIONに「凝縮と開放の家」を出展し、風呂・トイレ・キッチン・洗面など、生活の核となる機能を集約して一括りに配置・工事できる画期的なシステムユニット「ライフコア(LIFE CORE)」を提案しました。このシステムユニットを使用すれば、建築の構造・工法を単純化でき、自由な空間設計が可能となります。少子高齢化やひとり暮らし世帯の増加といった現代日本が抱える課題と新たなトレンドに対応し、快適な住まいと暮らしを実現するために何が必要となるか、LIXILは今までの常識にとらわれずに、模索し続けています。

「システムバスルーム量産化50年の節目の年にあたり、「日本は温泉と火山の国。自然の恩恵に感謝の気持ちを持ってそれが育んだ文化を大事にし、これからまた50年、人びとのライフスタイルにあった浴室空間を提案していきたい」と深尾は心新たにお風呂の開発に邁進しています。

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