「無駄にしない精神」が生んだ画期的な再生アルミニウム ‒ 脱炭素化の新たな選択肢に

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LIXILが進める低炭素アルミ事業の最前線のひとつ、富山県西部にある小矢部工場には、各地で回収されたアルミサッシなどの廃材が次々と運び込まれてきます。およそ1100度もの高温になる溶解炉の熱気に包まれた工場内では、使用済みのアルミスクラップが再び溶かされ、不純物の除去などを経て、新しいアルミ製品として生まれ変わっています。

小矢部工場では、長年培った経験と技術を結集し、アルミ再生率を100%まで高めた画期的なリサイクルアルミ素材シリーズ「プレミアル(PremiAL)R100」の量産に成功しました。

アルミニウムは、原料のボーキサイトから電気分解でアルミ地金を製錬する過程で大量の電力を消費することから「電気の缶詰」とも呼ばれます。しかし、脱炭素化社会の実現が求められる中、電力消費を抑える手段として、使用後のアルミ材を無駄にしないリサイクルの必要性が一段と高まっています。

「原材料調達を含めたサプライチェーン全体で、二酸化炭素(CO2)排出の大幅な削減が求められる中、リサイクルアルミ材の活用はさまざまな業界で注目されています」と、PremiAL製品の立ち上げの陣頭指揮にあたってきたリーダーの池上直樹・材料事業部長は言います。

「PremiALは、新地金を利用した製品とまったく変わらない品質と機能を維持しながら、世界トップクラスのアルミリサイクル率を実現しています。新地金を使用した製品から、PremiALに置き換えることで、大幅なCO2排出量の削減に貢献することができます」

25年の経験と取り組みが結実、アルミ地金への依存を減らす低炭素型アルミ形材が誕生

LIXILは昨年、シリーズ第 1 弾として原材料の 70%にリサイクルアルミを利用した「PremiAL R70」を発表し、ビル向けの建材として提供を開始しました。さらに使用率を 100% に高めた「PremiAL R100」の量産化にも成功し、今年秋から受注を開始します。

池上直樹・LIXIL Housing Technology 材料事業部長

池上直樹・LIXIL Housing Technology 材料事業部長

「LIXILがアルミのリサイクルに取り組みはじめたのは、カーボンニュートラルという言葉が出るはるか以前、25年以上前のことでした。当初から脱炭素を目指したというよりは、アルミという貴重な資源を有効に使おうという社内的な取り組みから始まったのです」(池上)

解体する建物のアルミサッシなどをそのまま廃棄するのはもったいない、新しい製品に再生することはできないか。先人より受け継がれた「無駄にしない精神」がPremiALの技術開発のきっかけになっています。

「当初、解体されたアルミサッシの廃材などをビスや錠などの様々な部品がついたままの状態で引き取り、自分たちの手でそれらを取り除き、再生できる状態になるまで選別していました。その後リサイクル率を高めていく中で、パートナー企業に回収、解体、選別の協力を依頼するようになり、現在は全国各地から選別された原材料を安定的に供給してもらっています」と話すのは、材料の調達の管理や再生アルミの製造技術を担当する材料事業部の田中直也です。

様々な経験と工夫を重ね、現在ではリサイクルアルミ使用比率100%の形材を量産できるまでに漕ぎつけました。

田中直也・LIXIL Housing Technology 材料事業部

田中直也・LIXIL Housing Technology 材料事業部

「技術面で最も難しかったのは、リサイクル率を上げるだけでなく、再生アルミの成分を新地金によるアルミと全く同じにすることでした。そのためには、回収した材料に混入している鉄やステンレス、亜鉛などの異種合金などを効率よく、徹底的に取り除く技術が必要だったのです」(田中)

LIXILでは2009年から2012年にかけてNEDO(新エネルギー・産業総合開発機構)の助成事業として、早稲田大学などと共同で使用済みのアルミサッシから不純物を取り除く選別技術の研究に取り組みました1。その後も独自の研究開発を重ね、現在では新地金を使ったアルミと同等の品質と性能を再生アルミで実現することが可能になっています。

「R100の量産化に成功した時は、この開発に関わることができてよかったと心から感動しました。これもすべて過去からの積み重ねや、パートナー企業との協力関係があってこそできたことです。今後はさらにグローバルなCO2削減に貢献したい。日本ばかりでなく世界で採用されるようにこれからも研究を続けていきたいと思っています」(田中)

世界で急増するアルミ需要 地球環境保護へリサイクル拡大が急務に

アルミニウムは私たちの暮らしや社会に欠かせない最も重要な金属の一つです。軽量で耐久性に優れ、加工しやすい素材として、今後も幅広い分野で大きな需要が見込まれています。2050年までに世界のアルミの需要量は50%以上増加する2と予測されています。

しかし、アルミの新地金は製錬の際に多くの電気を必要とし、大量のCO2排出につながる、という問題があります。CO2を排出しない太陽光発電などの再生可能エネルギーに転換しても、アルミ製錬に必要な膨大な電力需要を満たすのは難しいのが現状です。

そこで注目を集めているのが、新地金を使用しないリサイクルアルミの活用推進です。アルミは他の金属と比べると融点が低いため、少ないエネルギーで溶解して再資源化できる素材です。リサイクルに必要なエネルギーは、新地金を製造する場合と比べてわずか3%となります。つまり、アルミ製品の原材料を、新地金からリサイクル材に置き換えることで、CO2排出量の97%を削減することができるのです。

このように、リサイクルアルミの利用にはメリットがある一方で、使用済みのアルミ製品の回収ネットワークを構築したり、リサイクル材の選別や不純物の除去が必要になるなど、手間とコストがかかります。しかし、地球温暖化への危機感が強まる中、限りある資源を有効活用すべきだという世論の高まりを背景に、世界各地でリサイクルアルミへの需要が広がっているのです。

リサイクルアルミはこれまでも私たちの暮らしの隅々で活用されてきました。例えば、回収のスキームが確立している日本でのアルミ缶のリサイクル率は94%に上り3、より精緻な製造過程を要求される自動車や二輪車の部品や車体をはじめ、スマートフォンなどにも脱炭素社会を実現する素材として一段と用途が広がっています。

建物が排出するCO2削減へ新たな解決策

限りある資源を無駄にすることなく、製品としての役目を終えたあとも、再資源化することで新たな価値を生み出すことはできないか、LIXILは資源の循環利用に向けて業界をリードしてきました。

細井健司・LIXIL Housing Technology サステナビリティ企画推進部

細井健司・LIXIL Housing Technology サステナビリティ企画推進部

「製品に使う樹脂や木材についても積極的にリサイクル材の活用を進めており、アルミ製品については2031年3月期までにリサイクルアルミの使用比率100%の達成を目指しています」と語るのは、環境対策の面からPremiALの推進をサポートするLHT サステナビリティ企画推進部の細井健司です。

リサイクルアルミは様々な分野の脱炭素化に貢献できる素材ですが、とりわけ大きな効果が期待されているのが建築部門です。国連の報告4によると、2021年時点で全世界のCO2排出量における建築部門の割合は37%を占め、カーボンニュートラルな社会の実現に、建築部門でのCO2を削減することが大きなカギを握っています。

建築物に由来するCO2については、二つの分野で削減の取り組みが進んでいます。ひとつは暖房、冷房、給湯など、居住時のエネルギー使用や利用によって生じる「オペレーショナル・カーボン」と呼ばれるCO2の削減です。そのためにはビルや住宅の窓や壁などの断熱性能を強化し、エアコンや暖房機器のエネルギー効率を高める必要があります。

「LIXILでは、大型のビルや一般住宅の双方において、省エネによって使うエネルギーを減らしつつ、創エネによって使う分のエネルギーをつくり、エネルギー消費量を正味(ネット)ゼロにすることで、オペレーショナル・カーボンの削減を推進しています。断熱性の高い建築工法や高断熱窓で消費エネルギーを削減しながら、太陽光発電などによる創エネを推進し、オペレーショナル・カーボン削減の取り組みは大きく前進してきたと思います」(細井)

一方で、課題となっているのは、建設に使用される原材料の調達から、加工、輸送、建設、改修、廃棄の際に排出されるCO2対策です。この建築物のライフサイクル全体を通じて排出されるCO2は「エンボディード・カーボン」と呼ばれますが、低炭素型アルミ形材のPremiALシリーズは、原材料の加工や廃棄物の再利用によってエンボディード・カーボンを大幅に削減する手段として期待されています。

低炭素型アルミ形材「PremiAL」

低炭素型アルミ形材「PremiAL」

PremiALはR70、R100とも、リサイクルアルミとしては日本で唯一、第三者認証である『エコリーフ環境ラベル』を取得しました。これに加え、R100では新地金を使用していないリサイクル材100%の小矢部工場でのビレット生産の運用・管理について、第三者機関の日本検査キューエイによる検証も受けています。これにより、PremiALの利用者は建設時に使用する建材の環境への影響を定量的に示すことができ、CO2排出量を含む数値を見える化することで建築物の環境価値を向上させることができます。

「現在、リサイクルアルミの使用比率100%の再生アルミを生産できるのは、世界でもLIXILとノルウェーのアルミニウム大手ハイドロ社の2社だけと言われています。PremiAL製品を使えば、建設会社、建材メーカー、デベロッパー、ビルオーナーにとって、エンボディード・カーボンの大幅な低減につながります。建築物は、建設から解体撤去に至るまでの長期にわたって環境に対して様々な影響を与えます。誰にでも身近な建築物を通じて、脱炭素化の取り組みが進んでいることを広く伝えていきたいと思います」(細井)

資源循環の輪を世界へ広げるきっかけに

長年にわたる研究開発と池上、田中、細井をはじめとする、さまざまな分野の専門家が力をあわせたことで生まれたPremiALシリーズ。しかし、まだ試みは半ばであり、ここからが本番だ、とリーダーの池上は考えています。

「PremiALを世に出すことはできましたが、まだ成功したとはいえない、ようやく入り口に立っているところだと思います。
PremiALは、生産現場のメンバーが改良や品質向上を重ね、地道な努力を続けてくれたからこそ実現することができました。次のステップはPremiALの価値を世の中にいかに広く伝えていくことです。エンドユーザーにまで名前が認知されるようになってこそ成功と言えるのではないでしょうか」(池上)

脱炭素社会に向けた取り組みは全世界で加速しています。PremiALがもたらす価値は欧米の建材メーカーからも注目され、海外での事業化を見据えて話が進んでいます。

「今年、ドイツで開催された世界最大の国際建築・建材・建築システム見本市(BAU 2023)に参加した時には、デザインや形状と並んで、どれほどCO2を削減した商品であるかが評価の基準になっていることに衝撃を受け、世界の変化を実感しました。同時に、PremiALが持つ可能性にも自信を深めました」(池上)

海外では脱炭素化をめざす環境基準の強化が広がっており、たとえば、欧州連合(EU)では今年から、EU域外から域内に向けて輸入する際に炭素排出量の報告が義務づけられ、2026 年からは環境規制の緩い国からの輸入品に事実上の関税をかける「国境炭素税」が本格導入される見込みです。

LIXILでは既にベトナムやタイの工場でR70の生産が始まり、R100の量産体制の構築も始まっています。現地ではリサイクル原料調達のスキームも確立されており、欧州、アメリカ、東南アジアなどへの海外展開にも積極的に取り組む方針です。
PremiALは将来、私たちの暮らしがもたらす環境負荷を長期的に軽減していく新しい選択肢として、世界中で認知され、利用されていくことが期待されています。

今後は、新しくリサイクルアルミを手がける企業が増えることが予想されます。池上は、長年の開発経験に基づくLIXILの製品が技術的な優位性に自信を示すと同時に、業界全体でアルミのリサイクル率を上げることも不可欠であり、そのための活動にも努力を惜しまないと語ります。

「たとえば、CO2排出量を削減した製品を出荷する際のトラックに荷物が少ししか積まれていなければ非効率です。脱炭素化を達成するには、原料の調達から生産、流通、消費、廃棄リサイクルまで全体で環境負荷の低減を実現しなくてはなりません。世界中のすべての人が環境課題をトータルで意識できるようになること、PremiALがそのきっかけになること、私個人としてはそれこそがこのプロジェクトの真の成功と考えています」(池上)

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