水まわり業界のさらなる発展に向けて: 欧州市場で求められる3つの変革

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新型コロナウイルスの世界的な流行は、社会に予期せぬ変化を生み出しました。その一つがDIY市場の急成長です。

専門業者に依頼するのではなく、自らが住宅改修を行うDIY(Do-It-Yourself)の世界市場は、2020年に14%近く成長し、その中でも欧州が大きなシェアを占めています。英国では、最初のロックダウン(都市封鎖)が実施されると、住宅向けのDIY製品やガーデニング関連製品のオンラインでの売上がほぼ倍増しました。

これは、コロナ禍において自宅で過ごす時間が増えたことに加え、ロックダウン期間中は特に、配管や施工を行う外部業者に自宅での作業を依頼することが困難だったという背景があります。このため、多くの人は状況が変わるのを待つよりも、自らの手でDIYに取り組む方が早いと考え、一気にシフトが進んだのです。

コロナ禍が収束したとしても、DIY市場の拡大は今後も継続すると見られており、専門家は2020年から2025年にかけての年平均3%の成長率が見込まれると予測しています。つまり、コロナ禍以前にもこのような兆候はあったものの、ロックダウンがこのトレンドをさらに加速させたといえます。水まわり業界もさらなる成長に向けて、変容するトレンドを捉え、対応を強化していく必要があります。

新たな課題にどう対応していくのか、LIXILのEMENA(欧州・中東・北アフリカ)地域を統括するリーダーのJonas Brennwaldに話を聞きました。

1. 業界の二極化への対応と未来を担う若手人材の取り込み

空調設備や水まわり設備の業界が長年苦しんできた大きな課題の一つとして、施工を担当する人材の不足があります。熟練した施工技術者の大半が定年退職を迎え、若い人材が十分に育っていないのが現状です。2008年の世界金融危機以降、学歴志向が高まり、配管工を志望する若者が減少してしまったことや、家族経営の配管業者がほぼ消滅してしまったことが原因として挙げられます。

さらに、長い訓練期間と肉体労働が伴うことも、若い世代に敬遠される理由だとBrennwaldは言います。パンデミックはキャリアの選択にも影響を及ぼし、求職者は対面が必須となる仕事よりも在宅勤務が可能な仕事を好むようになったという調査結果も出ています。

人手不足は業界全体で起きていることですが、最も状況が深刻なのが水まわり設備の分野です。Brennwald によると、これは空調設備と水まわり設備の二極化を反映していると考えられます。住宅のエネルギー効率の向上や二酸化炭素排出量の削減を目指す政策関係者や住宅の所有者から、空調設備の見直しによる省エネ化に大きな関心が寄せられています。一方で、水まわり設備に関しては、空調設備と比較すると関心度が低く、遅れをとっているという現状があります。

この見方は、統計でも裏付けられています。マーケティングコンサルティングを行うUSP社の調査によると、2021年第4四半期には、イギリス、フランス、ポーランドでは、10社中9社が空調設備の取り付けを行う一方、水まわり設備を手がけるのは10社中7社にとどまっているなど、欧州の主要市場において格差がみられています。

「税制優遇措置や公的補助を利用すれば、ソーラーパネルや地中熱ヒートポンプを設置することで、自宅のエネルギー源を再生可能エネルギーに転換することができます。一方で、水まわり設備によって、サステナビリティが向上できるという点は見逃されてしまう傾向にあります。そのため、空調設備や再生エネルギーに精通しようとする施工業者が多く、中でも新規に参入した業者は、水まわり設備よりも最新の環境配慮型技術に魅力を感じています。これは、水まわり設備の業界においても、先進的で革新的な製品を同じように提供しているにもかかわらず起きていることなのです」と、Brennwaldは説明します。

2. 取引慣行と価格偏重による課題克服

「欧州では、新築マンションであるにもかかわらず、使用されている水まわりのインフラは1980年代に一般的だったものと変わらないというケースが多くあります」とBrennwaldは言います。

水まわり業界では、どの製品が設置されるかは、製品そのものが提供する価値よりも、施工業者にとって利益率が高いかどうかという点に左右されています。「このような取引慣行が継続されることによって、水まわり設備はソリューションとしてではなく、単なる製品として販売され続けます。例えば、一般的な床置きのトイレは、1回の洗浄で7~8リットルの水を使用します。通常、4人家族の場合、1日に平均20回程度トイレの水を流すことになるので、計140リットルの水が必要という計算になります。しかし、家庭用の場合、どの製品であれば省エネ・節水などの環境性能が最も高いかといった点について、コンサルティングが行われているケースはほとんどないというのが実状です。」

ヨーロッパは、サステナビリティやエネルギー効率化などの取り組みが進んでいる地域だと世界的に知られていますが、アラブ首長国連邦やサウジアラビアといった国々こそ、水まわり分野における持続可能性を高める先進的な法律を導入していると、Brennwaldは指摘します。

「空調設備と同様に、水まわりにおいても、私たちは一貫した姿勢を打ち出していく必要があります。水まわり設備を通じて、より持続可能で次世代型の住宅やインフラを整備することができるという認知を高め、この業界が提供する価値を向上させていくことができなければ、配管工という仕事に多くの人が魅力を感じてくれることはないでしょう。」

さらに、空調設備と同じくらい魅力的な業界として、水まわり業界の地位向上を図るためには、最新の水まわり技術に関するトレーニングや資格の取得を推進するといった取り組みも必要になります。

3. 未来に向けたアジェンダ作り

Brennwaldは、水まわり設備業界が今後も競争力を保つためには、根本的な変化を受け入れることが重要だと強調しています。

その一例が、LIXILのGROHEブランドが欧州市場向けに発表した「GROHEQuickFix」シリーズです。「GROHEQuickFix」は、ツール、マニュアル、動画がセットになったDIYキットのようなもので、外部業者への依頼が困難な時や、簡単な作業だけで専門業者に頼むことが憚られる時でも、自分で簡単に水まわり製品の取り付けや保守を行うことを可能にしました。

エンドユーザーからは、好意的な声が数多く寄せられている一方、水まわり業界の一部では、このような DIY 志向の消費者に向けた製品が提供されることによって、市場への影響を懸念する声も出ています。

しかしBrennwaldは、「蛇口1つを取り付けるためだけに家庭を訪問するのが配管工の仕事ではないという点を、真剣に考えなければなりません」と指摘します。

専門知識を持つ配管工は、エンドユーザーの将来を見据えてソリューションを提案し、設置まで行うというコンサルタントのような役割を担うことができると考えています。これは、「GROHEQuickFix」のようなDIYキットを提供するだけでは実現できないことです。つまり、低賃金で水栓の交換をするのではなく、専門家としてより収益性が高く、未来志向の仕事に注力できるようになるということなのです。

また、業界全体や専門機関は、新たなトレンドに対抗するのではなく、そうした動きのさらに上を行き、地球環境やサステナビリティの課題に対応する最先端のソリューションを提案していくことで、地位向上を図っていくべきだとBrennwaldは主張します。水の保全、デジタル化、より持続可能な水まわりインフラの開発などは、まさに私たちが取り組んでいくべき分野です。

「私たちは、施工業者、サプライヤー、卸売業者、小売業者、業界団体などさまざまなステークホルダーの力を結集していくことが必要です。私たちが力を合わせることで、将来を担う人材にとっても、エンドユーザーにとっても魅力ある業界をつくっていかなくてはなりません。」

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