キッチンから生まれるコミュニケーション

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更新:2017年12月14日

ソーシャルメディアを通じて、手料理やキッチンでの様子を共有する人を多く見かけます。スマートフォンをはじめとするモバイルデバイスの普及によって、インターネットへの常時接続とソーシャルメディアの利用が増大し、料理や家族での団らんといった家の中での個人的な時間や行為も、常に外の世界に向けて発信できるようになりました。

住まいと暮らしの研究家である土谷貞雄氏は、「こうした新しい環境が、料理を単なる家事労働から表舞台のエンターテイメントへと変え、キッチンは幸せな時間を過ごしている自分を発信する格好の舞台装置になったのではないか」と指摘しています。

よりオープンなコミュニケーションが広がるとともに、日々の生活に欠かせないキッチンも、より開かれた場所へと変化してきました。土谷氏が指摘するように、キッチンは、時代背景やその時代の人々の暮らしを反映し、変貌を遂げてきたのです。

時代とともに変化するキッチンのかたち

1950年代のキッチン©LIXIL資料館 かつて日本の住宅では、屋外の地面と同じ高さに土を固めた土間と玄関があり、この土間で炊事をするのが一般的でした。その後、1950年代に入り、大きな変化が生まれます。戦後日本の復興に向けて、日本住宅公団(現 都市再生機構)が、住宅難の解消のため、集合住宅の建設を開始しました。この集合住宅には、西洋式の食卓と椅子の隣にキッチンを配置したダイニング・キッチン(DK)が採用され、単に調理をする場としか考えられていなかった台所(キッチン)が、食事をする空間(ダイニング)と一体となったのです。その後、さらにリビングとも一体化されたLDK(リビング・ダイニング・キッチン)というコンセプトが誕生しました。かつては炊事をするための独立したスペースだったキッチンは、家庭内で家族が多くの時間を過ごす住まいの中心へと移り変わっていったのです。

女性の社会進出とキッチンの変化

キッチンの変遷には、女性の社会進出が大きく関連していると考えられます。日本では、女性の就業率が高まり、共働き世帯が専業主婦世帯数を上回るようになりました¹。 従来、日本では「家事は主婦が行うもの」という考え方が一般的でした。しかしながら、共働き世帯が増加し、夫が外で働き、妻が家事・育児に専念するという伝統的な分業意識に囚われず、「家事は夫婦が協力して行うもの」と考える人が増えつつあります。

LIXILが行った夫の家事参加に関するアンケート²によると、夫が平日に毎日もしくは週3日から4日、料理や食事の片づけをする割合は45.8%、休日に限ると毎週もしくは月2回から3回と回答した割合は64.5%と半数以上に高まります。年齢別にみると、20代が最も高く、70%以上の男性が平日毎日もしくは週3回以上、夫が料理や食事の片付けを行うと回答しています。一方で、50代の家事参加の比率が最も低く、世代間の意識の違いが浮き彫りとなりました。

また、料理に対する社会意識の変化もあります。料理はとても創造的な行為であり、「しなければいけないもの」と考えるのでなく、「楽しむための行為」として捉えられるようになっています。先のアンケートでも、家事に参加する夫の理由として、「共働きだから」を挙げた人が約30%と最も高い割合を示しましたが、一方で、5人に1人が「料理が好きだから」という理由を挙げています。従来、妻だけが使う閉じられたスペースだったキッチンは、夫婦や家族で料理も分担する時代となり、住まいの中心にある開かれた場所となってきたのです。

ライフスタイルの変化とオープンキッチン

オープンキッチンにはさまざまな種類があり、家族のライフスタイルや価値観が反映されています。建築家の西田司氏は、「キッチンは人が交差し、集まり、コミュニケーションが生まれる場所」だと言っています。西田氏の設計によるオープンキッチンの実例①を見ると、キッチンが家の中のどこからでも見えるように配置され、コンロもシンクも2つずつあり、料理をしながら家族とのコミュニケーションが取りやすく設計されているのがわかります。もう1つの事例では、リビングとダイニングの間、つまり、人の動線が交差するところにキッチンが置かれています。ここでもやはり、キッチンを中心とした家族のオープンなコミュニケーションが重視されています。

西田司氏設計によるオープンキッチンの実例①(設計 西田司+神永侑子、撮影 鳥村鋼一)

西田司氏設計によるオープンキッチンの実例②(設計 西田司+海野太一+一色ヒロタカ、撮影 鳥村鋼一)

一方で、建築家の永山祐子氏は、「キッチン全体をただオープンに見せるのではなく、見せる場所と見せない場所のメリハリをつける」と考えています。永山氏が設計した事例では、オープンキッチンでありながら、調理をするスペースをあえて視線から隠すことが意図されています。特に火を使うような料理は、集中して作業できるようコンロを壁際に配置し、シンクがダイニングテーブルに向いているアイランド型のオープンキッチンとなっています。動線としては、一体で機能的でありながらも、視覚的にはうまく視線を外せるような工夫がされているのです。

永山氏は、「子供の頃、母親とゆっくり話せるのは、食事が終わった後に一緒に片づけをする時だった」と言います。母親が料理をしている時は、作業に集中していますが、食事の後、一息ついて洗い物をしながら、学校であったことなどをよく聞いてくれたそうです。シンクがダイニングに向いて設置されていることで、洗い物や料理の準備は、家族と話しながら行うことができ、こうしたコミュニケーションのシーンが容易に想像できます。

永山祐子氏の設計によるオープンキッチン(設計:永山祐子、撮影 阿野太一)

「キッチンを中心にした暮らし」へのニーズが高まる中、LIXILでは、あえてダイニングテーブルを作らず、キッチンの周りで過ごすことを提案した「リシェルPLAT」というシステムキッチンを2016年4月に発売しました。「リシェルPLAT」は、キッチンの背面にダイニングテーブルを一体化させたことで、水平移動のみで配膳や片付けができ、効率よく家事を行うことができるだけでなく、料理をし、食べ、くつろぐことができる新しい空間を生み出しました。また、大きなダイニングテーブルが不要になるので、リビングルームも広々と使うことができるようになります。

LIXILのシステムキッチン「リシェルPLAT」

キッチンの未来

このように、時代に合わせ、キッチンに求められる役割は多様化してきました。そして、これからも新たなキッチンのかたちが生まれてくることでしょう。前述の土谷氏は、次のように分析しています。「日本では、経済成長優先の時代から、精神的な豊かさや生活の質の向上を最優先するような成熟社会となり、人々はどんなものを、誰と、どのように食べて暮らすのかを重視するようになってきました。理想のキッチンは十人十色ですが、これからますます家族や友人とのコミュニケーションの場として、重要になっていくでしょう」。

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