節水は、新たな日常に

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更新:2018年3月22日

南アフリカのケープタウンに住むカースティ・アルバーツさん一家は、2週間に1回ベッドのシーツを洗濯し、1日か2日に1回程度、どうしても必要な時にのみ自宅のトイレを洗浄します。カーラ・ドス・サントスさんは、シャワーは2分以内と決めています。庭に水やりができないため、植物はすっかり枯れてしまいました。ロビー・ウェブさんが通うジムでは、シャワーの水を再利用してトイレを洗浄しています。プールはもう長いこと利用できていません。

これがケープタウン市民の新たな日常です。アフリカ大陸の南端にあるこの都市は、3年にもおよぶ干ばつに見舞われ、深刻な水不足に直面しています。

市によると1、約433,000人の市民に水を供給している池の貯水率は、2018年2月の時点で25%にまで下がっています。このまま貯水量が減り続ければ、早ければ8月2には、ケープタウンの水道が止まってしまう可能性があります。

「ケープタウンの水不足を知って節水を始めたのがいつのことだったか、もはや思い出せません」ステレンボッシュ大学の学生で、ケープタウン郊外のブロウベルグに住んでいるアルバーツさん(34歳)はそう話します。一家で水の使い方を抜本的に見直してきましたが、状況は深刻だといいます。

25Lの水を湧水から汲むケープタウン市民

25Lの水を湧水から汲むケープタウン市民

この問題を緩和するべく、市はさまざまな厳しい対策を講じてきました。ケープタウン水道局のジェーン・レディック氏によると、節水対策の効果はすでに現れつつあります。「市は世帯の水の消費量を監視し、1カ月の合計消費量と1日あたりの平均消費量を料金表に表示しています」。1人あたりの消費量は1日最大50リットルまでに制限されており、これを守らない世帯は多額の罰金を徴収されます。

ケープタウンにおける1日の水の消費量は、2015年2月3には12億リットルでしたが、現在は5.1~5.2億リットルとなっています。当時と比べて約60%の削減を実現したことになります。

一方で、安全な飲料水を供給できなくなる不安を抱えた都市は、ケープタウン以外にも世界に多数あります。世界の500以上の都市を対象に2014年に行われた調査4では、4分の1の都市が水不足や安定的に水を利用できない「水ストレス」に直面しているという結果が出ています。また、国連の予測5によると、気候変動、人びとの生活の変化、人口の増加などによって、2030年には世界の真水の需要量が供給量を最大40%も上回るというのです。

こうした問題をかかえているのは、乾燥地帯や準乾燥地帯の国々ばかりではありません。モスクワ、北京、ロンドン、リオデジャネイロ、イスタンブール、ロサンゼルス、東京といった都市も、「水ストレス」に直面していると指摘されています。6

ケープタウン市郊外の貯水量が低いダムケープタウン市郊外の貯水量が低いダム 水不足の回避はすべてのステークホルダーが取り組むべき課題です。水に関する専門性を有する民間企業は、率先してこの問題に取り組まなければなりません。

LIXILは調達から廃棄に至るまでの製品のライフサイクル全体で水の保全と持続可能な水利用を進めています。また、技術革新による節水といったような、製品・サービスによる環境貢献を推進しています。

「生活者は、知らず知らずのうちに大量の水を無駄使いしてしまうことがあります。当社は生活者の行動を観察し、そこから学んだことを生かして、使用感を損なわずに節水ができる商品を開発してきました」LIXILで品質・技術・環境分野を管掌する川本隆一は語ります。

水の無駄使いの代表的な例が、食器洗い時に水道水を出しっぱなしにすることです。LIXILが南アフリカで展開するCobraブランドでは、吐水口に取り付けることで使用感を損なわずに60%の節水を実現する泡沫キャップを販売しています。また、LIXILが日本で販売するキッチン用タッチレス水栓「ナビッシュ」は、人の手に感知するセンサーを用いて、自動的に吐水と止水を切り替え、水の消費量を従来型水栓より13%ほど抑えています。

多くの先進国では、飲用水がトイレの洗浄にも使われています。LIXILのブランドであるアメリカンスタンダードが発売中の各種水洗トイレは、水の消費量が従来型のトイレと比べて20%近く抑えられています。

また、家庭では配管の破裂や水漏れなど、水まわりの緊急事態が発生することもあります。グローエのSense Guardは、水漏れが発生した際には水圧や水の消費量の変化を検知し、自動的に水の供給を止めます。家主の外出中も、専用アプリを通じてどこからでも最新の状況を確認することができます。

「水の確保と持続可能な利用を実現するために、積極的な技術革新を進めていくことはもちろんですが、一方で、ステークホルダー全員が力を合わせて取り組む課題も多いと思います」川本はそう語ります。

「国は水資源をより持続可能なものにするための環境を整えていくことを求められています。政府機関や公益事業会社、NGOは、国民の水利用に対する意識を高めるために力をつくせることがありますし、もちろん私たち個人にもできることがたくさんあるはずです。」

節水のため閉鎖されたケープタウン市のスイミングプール

節水のため閉鎖されたケープタウン市のスイミングプール

それを最も実感できるのは、おそらく今のケープタウンだといえるでしょう。政府機関からアルバーツさんのような市民まで、あらゆるステークホルダーが水不足のさらなる深刻化を回避しようと懸命な努力を続けています。

ケープタウンでは、枯渇し断水が始まる「デイ・ゼロ」は今のところ回避できています。しかし、厳しい現実に直面した市民は、節水のためのあらゆる取り組みを日々行っています。ケープタウンの人びとにとって、それが新たな日常になりつつあるのです。

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