LIXILは、世界中の誰もが描く住まいの夢を実現するために、日々の暮らしの課題を解決する先進的なトイレ、お風呂、キッチンなどの水まわり製品と窓、ドア、インテリア、エクステリアなどの建材製品を開発、提供しています。
“最新のトイレ”と聞くと、洗練されたデザイン、優れた洗浄機能や汚れが付きにくい技術、最近ではアプリとの連携機能などが思い浮かぶかもしれません。トイレの機能は目覚ましい進化を遂げる一方で、「用を足した後に水で流す」という、水洗トイレの基本的な仕組みは、何世紀にもわたって変わっていません。しかし、こうしたこれまでの常識に捉われない、まったく新しいアプローチで、トイレの「再発明」を目指す取り組みが進んでいます。
米ジョージア工科大学1のShannon Yee教授2は、このトイレの「再発明」に10年以上にわたって挑んできました。例えば、異物をトイレに流してしまったらどうなるかを調べるために、ごみ袋やおもちゃの車を実際に流してみるなど、さまざまな実験を繰り返し、時には「排泄物が6メートルも上に吹き出して、天井に飛び散ってしまった」こともありました。
「トイレの話の素晴らしいところは、誰でも共感できるということなんです。トイレはみんなが使うものですからね。その半面で、非常に深刻な側面を持ったテーマでもあります」とYee教授は言います。
世界では、約35億人が安全なトイレを利用できない環境で暮らしており3、このうち私有のトイレや仮設トイレといった基本的な衛生サービスを使えない人の数は15億人にのぼります。こうした状況は、社会福祉や社会・経済の発展に影響を及ぼし4、コレラや下痢、チフスなどの病気の蔓延にもつながっています。結果として、毎日5歳未満の子ども約1,000人が命を落としています5。
安全な衛生環境の欠如は多くの発展途上国にとって深刻な問題6ですが、先進国にも無関係ではありません。世界各国の都市部に住む7億人以上が、衛生環境の整っていないスラムや非正規居住区に住んでいます。また、都市部の衛生インフラについても、既存の下水道や下水処理施設が老朽化しています。例えば、イギリスでは8割の排水システムが処理能力を超える状態7で使われており、下水が河川に流れ込み、公衆衛生にリスクをもたらしています。
米ジョージア工科大学 Shannon Yee 教授
衛生環境に関わるインフラを維持・更新していくためには、大きな費用もかかります。例えば、最近では、パリ・オリンピックでセーヌ川がトライアスロンの水泳種目の会場となり、水質基準への懸念から国際的な注目を集めましたが、フランスはセーヌ川の汚染を減少させるため8に、パリの下水道システムの改修に15億ドルを投じています。米国でも、下水インフラの維持費用9はこの10年間で7割以上増加しています。
「『世界の半分はトイレを必要としていて、残りの半分はもっと良いトイレを求めている』とよく言われます。言い換えれば、世界の衛生インフラは完璧な状態とはほど遠い、ということだと私は思います」とYee教授は指摘します。
グローバルな衛生危機への対応は、世界中の人びとのより豊かで快適な生活の実現を目指すLIXILが、優先的に取り組んでいる重要課題です。LIXILは、Yee教授と連携し、約100人のエンジニア、科学者、産業デザイナーで構成されるジョージア工科大学の研究開発チームと共に、「第2世代再発明トイレ(G2RT)」の開発を推進してきました。
このG2RTの開発は、2011年に始まったビル&メリンダ・ゲイツ財団の研究支援プログラム、「トイレ再発明チャレンジ(Reinvent the Toilet Challenge)」が出発点になっています。現在の一般的なトイレと大きく違うのは、G2RTは排泄物を処理するための下水道や浄化槽などのインフラを必要とせず、電源があれば独立して機能する点です。
つまりG2RTは、排泄物を直接その場で処理することができる機能を有しているのです。排泄物をまず、固形部分と液体部分に分離します。固形部分は高熱、高圧で処理することで病原菌を死滅させ、ホッケーで使われるパックのような大きさの乾燥した円板を排出するしくみで、これは肥料としても利用できます。また、「超臨界水酸化」と呼ばれる技術を使って処理することで、固形部分は清潔な水と灰に分解することもできます。液体部分は衛生的に処理され、こちらも洗浄水として再利用されます。
従来型のトイレとは一線を画すG2RTは、衛生環境の改善に寄与するだけではありません。、排泄物の処理を完結できるトイレシステムであることから、トイレに関わるインフラの建設や設置コストを大幅に削減するとともに、水の使用を最小限に抑え10、エネルギーの節約にもつながります。
LIXILはこのプロジェクトの初期段階から製品化に向けたアドバイザー、便器部分のフロントエンド開発者としてジョージア工科大学と連携し、製品開発や製造に関与しています。これまでにG2RTのプロトタイプ(試作品)24台を使い、米国と欧州の研究所において実証研究を行い、インドや南アフリカの一般家庭にも設置して実証実験を実施しました。
この実証実験を通じて、G2RTは国際的な衛生基準をクリアできることがわかっています。LIXILはこの技術初の商業ライセンス・パートナーに選定されており、世界のどの地域にどのような需要があるのかを調査し、実用化に向けた次のフェーズに向けて取り組んでいます。
「もしこのプロジェクトが学術論文として本棚にしまわれるだけなら、そこまで興味はありませんでした」。 ジョージア工科大学で、G2RTのプロジェクトに参画してきたLisa Bianchi-Fossati氏は振り返ります。「しかし、共に開発を続ける中で、LIXILは実用化への強い意志を持って取り組んでおり、同じビジョンや価値観を持って、共にプロジェクトを推進していくことができると確信するようになりました」
LIXIL 常務役員 Erin McCusker
LIXILの次のステップは、一般家庭と公共施設の両方で利用できるように、製品化に向けて技術改良を続けていくことです。「安全な衛生環境にアクセスできない人たちが数多くいますが、この技術によって、トイレのある暮らしを実現したいと考えています」。LIXILでSATO事業部およびLIXIL Public Partnersを率いる常務役員 Erin McCuskerは述べています。
「この技術は、家庭だけでなく、公共の場所での利用や災害後の緊急対応など、潜在的なものも含めて多くの需要があると考えています。まずは、顕在化している緊急度の高いニーズに対応しながら、製品を市場に送り出すことに注力していきます」
G2RTの製品化イメージ
実用化に向けて、LIXILは専任のエンジニアチームを編成しました。製品の安全性、信頼性、耐久性、電力消費を考慮しながら、コストを抑え、購入しやすい価格の実現を目指します。今後3年から5年以内に市場に製品を投入することを目標11としています。
また、技術やコストだけではなく、国や地域ごとに異なる法規制にどう対応するかも、実用化にあたっての課題となります。「現時点では、技術改良とコストダウンを実現したG2RTが手に入ったとしても、すぐに設置できる場所はほとんどありません」とMcCuskerは言います。
「排泄物をその場で処理して再利用するという考え方はまだ非常に新しく、現行規制に照らして受け入れられるものかどうか。その対応を含め、まだやるべきことは多く残っています」
この技術の実用化を推進するLIXIL Public Partnersは、公的部門と協力して、革新的なソリューションの実用化を図ることで、水と衛生の課題に取り組んできました。例えば、米国内でもトイレの汚水問題に直面するアラバマ州において、保健局や南アラバマ大学と協力して、地域における深刻な衛生問題に取り組んでいます。
優れたアイデアを実現可能なソリューションに変え、衛生環境の改善を通じて生活水準を向上させることは、LIXLのインパクト戦略の柱の1つです。この戦略の推進は、LIXILのPurpose(存在意義)である「世界中の誰もが願う、豊かで快適な住まいの実現」につながるものであり、目標の一つとして、2025年までに世界中で1億人の衛生環境の改善を目指しています。
手に入れやすい価格のトイレの開発・普及を通じて衛生環境の改善に取り組むSATOブランドを中心に、さまざまなイノベーションを推進し、LIXILはこれまでに約6800万人の衛生環境を改善してきました。
さらに、G2RTのような革新的なアイデアを推進するためにパートナーシップを構築することで、世界中のより多くの人々にアプローチできるようになります。また、衛星環境の向上に向けては、SATOのような既存のソリューションへの投資を継続するとともに、ユニセフ、USAID(米国国際開発庁)、Toilet Board Coalitionをはじめとするパートナーと連携し、現地におけるエコシステムの構築に取り組んでいくことも重要です。
「政府や民間セクター、コミュニティなど、あらゆるステークホルダーと連携しながら、現在直面する衛生課題に対応し、将来を見据えたソリューションやビジネスモデルを開発するパートナーとして、LIXILの存在感を高めていきたいと思います」とMcCuskerは述べています。
¹ Georgia Institute of Technology (link)
² Georgia Institute of Technology (link)
³ UNITED NATIONS (link)
⁴ World Health Organization (link)
⁵ UNICEF (link)
⁶ United Nations Human Settlements Programme (link)
⁷ New Scientist (link)
⁸ France 24 (link)
⁹ Engineering News-Record (link)
¹⁰ Georgia Institute of Technology (link)
¹¹ Fast Company (link)